「秋王」偽装問題が示す“ブランド保護”の難しさ

海外通販サイトで福岡県のブランド柿「秋王」を名乗る干し柿が販売されているとして、県が注意喚起を行いました。真偽が判明していないうちから話題になっている理由は、単なる「名前の無断使用」ではなく、日本の農産物ブランドが抱える構造的な課題が浮き彫りになっているためです。

本記事では、この一件が何を示しているのか、そして私たち消費者が気をつけるべき点について考察します。

なぜ「秋王」問題が深刻なのか

福岡県が育成した「秋王」は、糖度が高く、食感が良く、種が少ないことから人気が高いブランド柿です。2012年に商標登録され、国内外で商標保護の体制も整えられています。

しかし今回、海外企業が運営する通販サイトで「秋王」と記載した干し柿が販売され、

  • 実際に秋王を使用しているか
  • 福岡県が商標利用を許諾しているか

が不明であることが問題視されています。

福岡県によると、商品画像は明らかに「秋王」でない品種である可能性が高く、未取得のGIマーク(地理的表示)まで表示されているケースも確認されたとのことです。

つまり今回の件は、単なる「誤表記」ではなく、ブランドの信頼性を損なう“悪質な可能性”があるという点がより深刻なのです。

なぜ海外で“ブランド偽装”が起こるのか

農産物ブランドは国内では一定の保護が行き届き始めましたが、海外に出ると事情が大きく異なります。

商標をとっていても万能ではない

福岡県は中国・韓国・香港・台湾でも商標登録をしていますが、

  • 模倣商品が出回るスピード
  • 画像の流用
  • 商品の真偽確認の難しさ

など、実務面では追いつかないのが現実です。

“本物志向の日本ブランド”が狙われやすい

日本の農産物ブランドは高品質で知られているため、名前だけを利用して高値で売る不正業者が後を絶ちません。

越境ECの爆発的拡大

海外通販サイトでは、商品管理の厳格さが千差万別です。
ブランド名の無断使用や、画像の適当な使い回しが横行しやすい環境も影響しています。

消費者はどう対処すべきか

福岡県にも「購入してしまった」との問い合わせが寄せられています。

県は、困った場合には国民生活センターの「越境消費者センター」への相談を呼びかけています。
特に越境ECでは返品や返金が難しい場合も多いため、次の点に注意することが重要です。

  • あまりに価格が高すぎたり安すぎたりしないか
  • 出品者情報が不明瞭ではないか
  • 公式の商標利用許諾の明記があるか
  • 商品画像が明らかに不自然でないか

「ブランド名が書いてあるから安心」という考え方は通用しない時代になったと言えます。

日本の農産物ブランドを守るために必要なこと

今回の「秋王」偽装疑惑は、地方が育てた農産物ブランドをどのように国内外で守っていくかという大きなテーマにつながります。

海外での商標戦略の強化

登録だけでなく、監視体制や摘発支援の仕組みを充実させる必要があります。

情報発信の強化

正規品と偽物を見分けるポイントや、認証制度(GIなど)の正しいロゴの掲載など、消費者に対する啓発も不可欠です。

ECサイト運営者との連携

違法出品の通報窓口を強化するなど、プラットフォーム側の協力も求められます。

まとめ:ブランドを守るのは「生産者と行政」だけではない

今回の「秋王」問題は、ブランド農産物が海外市場で直面するリスクを象徴しています。
生産者や自治体の努力だけでは防げない部分があるからこそ、消費者側のリテラシーも問われる時代です。

正規の流通経路かどうかを見極め、本物を選ぶ意識を持つことが、結果的に日本の農産物ブランドを守ることにつながります。

安心して「秋王」を楽しむためにも、私たち自身が賢い消費者として行動することが求められているのではないでしょうか。