「CRISPR特許戦争」に新たな展開──ノーベル賞受賞者に再び希望の光

21世紀を代表するバイオテクノロジー「CRISPR-Cas9」。その発明の功績をめぐる熾烈な特許戦争が、ついに新たな局面を迎えました。2025年5月12日、米連邦巡回控訴裁判所は、カリフォルニア大学バークレー校のジェニファー・ダウドナ教授とマックス・プランク研究所のエマニュエル・シャルパンティエ教授に有利な判断を下しました。この判断は、10年以上続く特許紛争において大きな意味を持ちます。

なぜここまで争われるのか?

CRISPR技術は、遺伝子を狙い通りに編集できる革新的な手法であり、既に遺伝性疾患の治療や農業・生物研究に広く応用されています。この技術が生み出す経済的価値は数百億ドルにのぼるとされ、まさに「現代の金鉱」とも言える存在です。

しかし、その根幹となる発明者をめぐって、ノーベル賞受賞者の2人と、MITおよびハーバード大学のブロード研究所に所属するフェン・チャン教授との間で、激しい知財バトルが繰り広げられてきました。

新たな判断の意味

今回の裁判所の判断は、特許審判部(PTAB)が過去に下した「発明の着想に不十分」という認定を覆し、再審理を命じたものです。特に注目すべきは、「発明の着想において、当初から完璧に機能する必要はない」という法的判断です。

この決定は、技術的ブレイクスルーが試行錯誤を経て形になるプロセスを法的に肯定したという点で、研究者全体にとっても朗報です。

科学と法の交差点で

この決定により、再び「誰が最初に何を発明したか」が改めて精査されることになります。13年前の研究ノートや実験記録が再び争点となり、ブロード研究所側が当時どのようにCRISPRの発展に寄与したかも詳しく調査される見通しです。

最終的な決着は、連邦最高裁判所に持ち込まれる可能性もあります。法的な結論が出るには、まだ長い道のりが残されているでしょう。

科学の進歩と知財の正義

CRISPRのような革命的技術は、科学者の創意工夫と膨大な試行錯誤の積み重ねから生まれます。今回の判断は、単に2人の研究者の名誉を守るにとどまらず、科学的功績が正当に評価されるべきという原則を再確認させるものでした。

知的財産が国家や産業の競争力の源泉となる時代にあって、「誰が何を生み出したのか」という問いの重みは一層増しています。今後の展開を見守りつつ、社会全体が科学と法の在り方を考える好機でもあるのではないでしょうか。