「Dev Mode」は誰のもの?Figma商標問題に見る“言葉の私物化”リスク

2024年4月、Webアプリ開発者界隈にさざ波のような衝撃が走りました。人気デザインツール「Figma」が保有する商標「DEV MODE」に関して、同じ名称を使用していたAI開発ツール企業「Lovable」に対して使用中止を通告したと、海外メディアThe Vergeが報じたのです。

この報道を受け、Redditのゲーム開発者向けフォーラム「r/gamedev」では、驚きと困惑、そしてFigmaに対する怒りの声が続々と投稿されました。「Dev Mode(開発モード)」という言葉は、長年エンジニアリング業界でごく自然に使われてきた汎用的な表現。それが突然「誰かの所有物」として法的に保護される――この事実に、多くの開発者が不信感を抱いたのも無理はありません。

言葉は「共有財産」か「知的財産」か

今回のFigmaの対応は、法的には正当かもしれません。実際に米国で商標登録されており、日本でも国際登録が確認されています。しかし、問題の本質はそこではありません。「Dev Mode」という一般的な技術用語を商標登録したことで、業界に緊張が走ったのです。

「商標」は本来、特定の製品やサービスのブランドを守るための仕組みですが、それが一般的な用語にまで及ぶと、逆に業界の健全な発展を妨げる恐れがあります。例えば、他の企業が「開発モード」という言葉を避けて名称を捻り出す必要があるとすれば、それは不自然で、利用者にとっても分かりづらいUIや機能名が生まれる原因にもなりかねません。

日本でも同時期に起きた「スクショ商標」騒動

さらに注目すべきは、ほぼ同時期に日本でもGMOメディアによる「スクショ」商標登録が問題視されたことです。「スクショ」はもはや日常語に近い存在。それが一企業によって独占的に使用される可能性があるとなれば、懸念の声が上がるのは当然です。

このように、一般的に使われてきた言葉が商標登録されることによる“言葉の私物化”が、日米で同時に問題化したというのは偶然ではなく、現代における商標制度のあり方を問う必然だったのかもしれません。

開発者コミュニティと知財のバランスをどう取るか

Figmaは優れたデザインツールとして広く受け入れられてきた一方で、今回の件ではその“先進性”が知財面で裏目に出た形です。もちろん、ブランドを守るための商標登録は正当な企業努力ではありますが、広く使われている言葉を“囲い込む”ような行為には慎重さが求められます。

この問題を通じて私たちが考えるべきは、言葉をどう守るのかではなく、誰のために守るのかという点です。開発者・ユーザー・企業、それぞれの立場が健全に共存するには、透明性と合意形成、そして何よりも「常識」と「対話」が欠かせないのです。