インドが提案した「AIトレーニング課金制度」は何を変えるのか――世界最大級市場のルールづくりが持つ意味

インド政府が、著作権で保護されたコンテンツをAI企業がトレーニングに利用する際に料金を支払う制度を提案しました。OpenAIやGoogleをはじめとする大手AI企業にとって、インドは成長性が極めて高い優先市場です。このため、今回の政策提案は世界のAI産業に影響を与える可能性が高いと考えられます。

DPIITが発表した枠組みは、AI企業があらゆる著作物へアクセスできるようにする代わりに、権利保有団体が設立する徴収機関に使用料を支払うことを義務づける仕組みです。徴収された使用料はクリエイターに分配されることになり、AI企業には権利処理のコスト削減、クリエイターには適正な報酬という利点があると説明されています。

著作権保護コンテンツの無断利用は世界中で争点になっています。OpenAIのSora 2が日本の人気キャラクターを生成できてしまうと指摘された問題は記憶に新しく、同社は書籍の無断学習を巡っても訴訟を抱えています。各国政府がAIトレーニングに対する規制を模索する中、インドは「使用料徴収とアクセス解禁の交換」という、強い介入色を持つ方向性を示しました。

この制度が実現した場合、AI企業は透明性確保やフェアユースの基準整備を重視する欧米とは異なるルールの下で活動することになります。特にOpenAIは「インドは将来的に最大の市場になる可能性がある」と公言しており、現地の制度設計は事業戦略に直結する重要な要素です。クリエイター支援という政策目的にもかかわらず、業界団体NASSCOMはイノベーション阻害を懸念して強制ライセンス制度に反対し、オプトアウト方式の導入を求めています。ビジネス・ソフトウェア・アライアンスも同様に、ライセンス依存が最適解とは限らないと主張しました。

今回の提案はまだパブリックコメント段階であり、企業や関係者が今後30日以内に意見を提出する必要があります。その後、政府が最終的な勧告をまとめる予定です。制度の詳細は今後さらに議論が進むとみられますが、インドが世界のAIトレーニングルール形成に強く踏み込もうとしていることは明らかです。

AI企業、クリエイター、そして巨大市場インド――三者の利害が重なる領域でどのような均衡点が見いだされるのか。今回の制度提案は、グローバルなAIビジネスの在り方そのものに一石を投じるものとなりそうです。