ハンズフリーラボ vs スケッチャーズの知財戦争から考える特許戦略の重要性
2025年7月24日、テキサス州の連邦裁判所に提出されたある訴訟が、フットウェア業界に激震をもたらしました。原告はハンズフリーラボ(HandsFree Labs)およびその傘下ブランドのキジック(Kizik)。被告は、世界的に知られるシューズブランド、スケッチャーズ(Skechers)です。争点は、靴紐を結ばずに履ける「ハンズフリー靴」の技術が模倣されたか否かという点にあります。
「履くだけ」の革命が引き起こす訴訟劇
今回の訴訟対象となっているのは、スケッチャーズの「Hands Free Slip-In」シリーズ。2022年の発売以来、特にスーパーボウル広告などで注目を集め、2024年のスケッチャーズの売上は約1兆3250億円に達しました。この成長を後押しした主力製品が、まさに問題のハンズフリー靴です。
一方で、原告のハンズフリーラボは、2017年にKizikを立ち上げて以降、このハンズフリー機構の研究開発に力を注ぎ、200件以上の特許取得・出願を行っています。今回の訴状では、4件のユーティリティ特許と2件のデザイン特許がスケッチャーズによって侵害されたと主張。損害賠償に加え、製品の差し止めも求めています。
特許侵害か、インスパイアか?
この問題は単なる特許の争いに留まりません。「模倣か、独自性か」という問いは、あらゆる業界にとって根深いテーマです。スケッチャーズは今のところ公にコメントをしていませんが、もし意図的な模倣が認定されれば、ブランドイメージや今後のビジネスモデルにも大きな打撃となる可能性があります。
さらに注目すべきは、今回の訴訟がスケッチャーズの94億ドル超の大型買収(3Gキャピタルによる)から間もない時期に発生した点です。企業としての透明性やコンプライアンス姿勢も問われる展開になりそうです。
イノベーションの「保護」と「拡張」
ハンズフリーラボは、単なる製品開発企業ではなく、技術ライセンシングによるエコシステム構築を目指す戦略的プレイヤーです。既にナイキなど大手にも技術提供を行っており、今後も提携の拡大を視野に入れています。
このように、自社の知的財産を戦略的資産として扱い、ライセンスビジネスで利益を拡大するモデルは、GAFAの特許戦略とも共通する部分があります。特許を守ることは、単なる防御ではなく、企業の競争優位性を築くための攻めの一手でもあるのです。
技術革新は「使われてこそ」だが、「盗まれていい」わけではない
イノベーションが評価され、市場で採用されることは開発者にとっての勝利です。しかし、それが正当な評価・報酬につながらないとすれば、誰がリスクを冒して技術開発に取り組むでしょうか。
本件の行方は、単なる靴のデザインの話ではなく、現代のイノベーションと知的財産権のあり方を問うケーススタディです。私たち消費者も、表面的なデザインの違いだけでなく、その背後にある「誰が創ったか」に目を向ける必要があるのではないでしょうか。