中国発のスマートグラス企業であるXrealが、米国で同業のVitureを特許侵害で提訴したというニュースは、AR(拡張現実)業界が新たな段階に入ったことを象徴する出来事だと言えます。これまで成長途上と見なされてきたスマートグラス分野において、技術と知的財産を巡る本格的な法廷闘争が表面化したからです。
なぜ今、特許訴訟なのか
今回の訴訟では、Xrealが長年にわたる研究開発と投資によって築いてきた特許技術が、Vitureの製品に不正に組み込まれていると主張しています。対象とされているのは、Luma ProやLuma Ultra、「The Beast」といった高価格帯モデルです。
両社はいずれも、スマートフォンやノートパソコンに接続して利用するARグラスを開発し、大画面の仮想ディスプレイ体験を売りにしています。そのため、解像度や視野角などの仕様が似通うのは自然とも言えますが、どこまでが「業界標準」で、どこからが「特許技術の侵害」なのかが、まさに争点になっています。
800件対70件という数字の意味
Xrealは声明の中で、世界で800件超の特許・特許出願を保有しているのに対し、Vitureは約70件程度で、しかも米国や欧州では保有していないと強調しています。この数字は単なるマウント合戦ではなく、「誰が技術的主導権を握ってきたのか」を示す材料として提示されています。
特許は量だけで価値が決まるものではありませんが、ARグラスのようにハードウェアとソフトウェアが密接に絡む分野では、広範な特許ポートフォリオが交渉力と防御力を大きく左右します。
Apple参入前夜の神経戦
この訴訟が注目される背景には、AppleがARアイウェア分野に参入すると見込まれている点があります。業界最大級のプレイヤーが本格参戦する前に、既存企業が自社の知的財産の境界線を明確にしようとするのは、ある意味で合理的な行動です。
ブルームバーグが指摘するように、今回の法廷闘争は市場拡大の「直前」に起きており、将来の競争環境を左右する前哨戦とも捉えられます。
市場シェアと“勝者不在”の現実
調査会社IDCによれば、ARアイウェア市場ではXrealがVitureを上回るシェアを持っています。ただし、一般消費者への浸透という点では、Ray-Banブランドのスマートグラスを展開するMeta Platformsが一歩先を行っています。
つまり、この分野ではまだ「絶対的勝者」は存在しておらず、技術、ブランド、そして知的財産のすべてが競争軸になっているのが現状です。
協業エコシステムを守るための訴訟
Xrealは近年、ASUSTeK Computerとの協業モデルを発表し、さらにGoogleとのパートナーシップも延長しています。声明で述べられている「協業先が安心して共同開発できる環境を守る」という主張は、単なる競合排除ではなく、エコシステム全体の信頼性を維持するためのメッセージとも読めます。
今回の訴訟が示すもの
この訴訟は、単なるXreal対Vitureの争いにとどまりません。スマートグラス、ひいてはAR業界全体が、実験的フェーズから「本格的な産業」へと移行しつつあることを示しています。
技術が成熟すれば、必然的に知的財産の境界を巡る摩擦は増えます。今回のケースは、AR業界が次の成長段階に進むための、避けて通れない通過点なのかもしれません。
今後、裁判の行方だけでなく、Appleをはじめとする大手の動きや、業界全体の特許戦略がどのように変化していくのかが注目されます。スマートグラスは、技術競争だけでなく、知財戦略そのものが価値を左右する時代に入ったと言えるでしょう。
