フリマアプリは「小さな犯罪」を大量化する――シャネル偽ロゴ事件が示す個人販売時代のリスク

はじめに

今回報じられた、シャネルのロゴを模したピアスをフリマアプリで販売していたとして中国籍の男女が逮捕された事件は、単なる偽ブランド品の摘発ニュースとして片づけるべきものではありません。むしろ、フリマアプリという日常的な売買インフラが、模倣品の流通経路としてどれほど機能してしまっているのかを、あらためて浮き彫りにした事案だといえます。

報道内容によれば、容疑者は中国で偽造品を調達し、日本へ持ち込んだうえでフリマアプリに出品し、約2年間で800回近く販売、売上は380万円に上るとみられています。1回あたりの取引額は比較的小さくても、それが積み重なれば無視できない規模になります。ここに、現代の模倣品流通の特徴があります。

高額な密輸ではなく「少額反復」が利益を生む構造

この事件で注目すべきなのは、販売された商品が1セット3980円のピアスだったという点です。高額なバッグや時計ではなく、比較的手を出しやすい価格帯の商品が繰り返し販売されていたとされます。

この構図は極めて現代的です。かつて偽ブランド品の問題というと、路上販売や海外旅行先の露店、高額商品の偽造が中心に語られがちでした。しかし現在は、スマートフォン一つで誰でも出品でき、配送も容易で、購入者との接触も最小限で済みます。その結果、1件ごとの利益は小さくても、回転数によって全体の収益を積み上げることが可能になります。

つまり、フリマアプリは個人の副業的感覚と、違法商品の流通を結びつけやすい構造を持っているのです。今回の「自分にもできると思った」という供述は、その危うさを象徴しています。

「軽い気持ち」と商標権侵害の深刻さ

この種の事件では、しばしば「生活費のため」「貯金を増やしたかった」「みんなやっていると思った」といった供述が報じられます。しかし、動機が身近であることは、違法性を弱める理由にはなりません。

ブランドのロゴやそれに類似した表示は、企業が長年かけて築いてきた信用の結晶です。模倣品の販売は、単に似たデザインの商品を売るという話ではなく、その信用にただ乗りし、消費者を誤認させ、市場の公正さを損なう行為です。とりわけ高級ブランドにおいては、ブランド価値そのものが商品価値の核心にありますから、ロゴを模しただけでも侵害の意味は大きいです。

しかも、購入者の中には「本物ではないかもしれないが、安いからよい」と考える人もいるかもしれません。しかし、その需要がある限り、供給は続きます。安さを理由に目をつぶることが、結果として違法流通を支えることになります。

フリマアプリの監視強化は当然だが、それだけでは足りない

今回の事件は、フリマアプリをパトロール中の捜査員が偽物の出品に気づいたことが発覚のきっかけだったとされています。この点は、オンライン上の監視が一定の効果を持っていることを示しています。

ただし、警察や権利者、プラットフォーム事業者による監視だけで問題を根絶するのは難しいでしょう。なぜなら、模倣品の出品は形を変えながら繰り返され、出品者もアカウントや商品説明の表現を変えることで摘発を逃れようとするからです。ロゴを「風」「ノベルティ」「海外製」などと曖昧に表現し、購入者の自己責任に見せかける手法も珍しくありません。

したがって、対策は監視だけでは不十分です。出品審査の高度化、権利者との連携、過去の出品傾向に基づく検知、そして何より利用者側のリテラシー向上が不可欠です。

消費者が持つべき視点

消費者の立場から見ても、この事件は他人事ではありません。フリマアプリでは、見た目がそれらしく、価格も絶妙に「安すぎない」設定にされていることがあります。そのため、偽物だと断定できず、つい購入してしまうケースもあるでしょう。

しかし、購入者は少なくとも次の視点を持つ必要があります。まず、ブランドロゴを前面に出した商品が極端に安い場合は疑うべきです。次に、出品者が同種商品を大量・継続的に販売している場合は、個人の不用品販売ではなく仕入れ販売を疑うべきです。さらに、説明文が不自然に曖昧で、真贋に関する明言を避けている場合も注意が必要です。

「安く買えて得をした」という感覚の裏で、権利侵害や違法流通に加担してしまう可能性があることは、もっと共有されるべきです。

越境EC時代の模倣品問題

今回の報道では、容疑者が中国への帰国時に通販サイトで偽物を購入し、手荷物や航空便で日本に持ち込んでいたとされています。この点から見えてくるのは、模倣品問題が国内流通の問題であると同時に、越境ECと個人輸入の問題でもあるということです。

海外で容易に入手できる偽造品が、個人レベルで少量ずつ国内に持ち込まれ、それが国内のフリマ市場で拡散する。この流れは、従来の大規模密輸とは異なり、摘発や水際対策を難しくします。ひとつひとつは小口でも、全体としては大きな流通量になるからです。

今後は、税関・警察・プラットフォーム・権利者の連携に加え、個人輸入と再販売の境界にあるリスクについても、より具体的な注意喚起が必要になるでしょう。

おわりに

この事件の本質は、偽ブランド品を売った個人が摘発されたという一点にとどまりません。フリマアプリという便利な仕組みが、違法商品を「身近な副業」に変えてしまう危険を持っていることが、あらためて示されたのです。

出品する側にとっては「少額だから大丈夫」「みんなやっているから問題ない」という感覚が、刑事事件につながり得ます。買う側にとっても、「安いから」という理由で疑わしい商品に手を伸ばすことは、違法流通を支える行為になりかねません。

便利な市場は、それを支える利用者の判断があって初めて健全に機能します。フリマアプリが生活インフラとなった今こそ、模倣品をめぐる法的・倫理的な感覚を、利用者全体で持ち直す必要があります。