中国、知財外交を加速──PPH導入国84超の意味とは何か

2025年を最終年とする第14次五カ年計画に関する中国政府の記者会見において、国家知識産権局の申長雨局長は、中国が80超の国・地域と知財協力関係を構築し、84カ国・地域との間で「特許審査ハイウェイ(PPH)」を導入したと発表しました。この発言は、中国の知的財産政策が国内整備から国際展開へとステージを移しつつあることを象徴しています。本稿では、PPH導入の意義、中国の狙い、そして国際社会への影響を考察します。

国際知財協力の「量的成果」としてのPPH拡大

申局長の発言は、数値として「80以上の国・地域との協力」「84カ国とのPPH導入」という形で示されました。これは世界の主要経済圏の大半を網羅する水準であり、名実ともに“知財外交”のインフラが構築されたといえます。PPHは各国の特許審査プロセスの迅速化を目指す仕組みであり、中国の特許審査品質・信頼性が国際的に認められつつあることを示す材料ともいえます。

中国の知財政策が「外向き」になった理由

以前の中国の知財政策は、模倣対策や国内技術振興といった「内向き」の課題解決が主眼でした。しかし近年では、自国企業のグローバル展開に対応する形で、外国との知財相互承認・協力の重要性が増しています。特にハイテク産業の海外進出が進む中で、PPHは特許取得のスピードと確実性を担保する重要な手段となっています。

国際秩序への影響──“知財強国”としての存在感

知財を通じて国際的なルール形成に関与することは、グローバルガバナンスの一端を担うことに等しい行為です。中国がPPHネットワークのハブとなることで、他国の知財行政に間接的な影響力を持ち始めているとも解釈できます。これはWTOやWIPOといった国際枠組みにおける中国の発言力強化とも連動しており、米欧との知財覇権争いという地政学的な文脈でも注視すべき動きです。

日本への示唆──競争か協調か

中国が積極的に知財協力を進める中、日本としてもアジアにおける知財インフラの整備や、日中連携の可能性を模索する必要があります。一方で、技術流出リスクや制度的信頼性の違いに対する警戒も根強く、経済安全保障と知財戦略をどう整合させるかが問われています。

中国が「知財強国」から「知財外交国家」へと変貌を遂げつつある現在、PPHネットワークの拡大はその象徴的成果といえます。この流れが単なる制度整備にとどまらず、国際ルールや産業競争の舞台にどのような影響を与えるのか。引き続き注視すべき動きです。