2025年4月24日、WTO(世界貿易機関)の紛争処理小委員会(パネル)は、知的財産権を巡ってEUが中国を提訴していた件について、「中国はWTOルールに違反していない」と結論づけました。EUは、2022年に中国の裁判所が5G関連技術などの特許保護を妨げたとしてWTOに提訴していましたが、今回、その主張は退けられる形となりました。
背景──EUの懸念とは
EU側は、中国の裁判所が「差止命令禁止命令(ASIs:Anti-Suit Injunctions)」を発動し、欧州企業が自国で特許権を行使することを阻止していると主張していました。特に、次世代通信インフラである5G技術をめぐる標準必須特許(SEP)の保護が不当に制限されていると問題視していたのです。
これに対し、中国側は国内裁判の独自性を主張し、国際ルールに違反していないと反論していました。
パネル判断──「ルール違反なし」と「透明性義務未達」
今回のWTOパネルは、EUの主張について「WTOルール違反を示せていない」と結論づけました。ただし、中国に対して完全な勝利宣言が出たわけではありません。パネルは、「中国はWTOが求める全ての透明性義務を順守しているとは言えない」とも指摘しており、情報公開の在り方に課題が残ることを示唆しています。
今回の判断が示すもの
この判断にはいくつかの重要なポイントがあります。
- 国際ルールの「グレーゾーン」
ASIsを巡る国際的なルール整備は依然不十分であり、各国の裁判権行使をWTOルールだけでは完全に規律できない現実が浮き彫りになりました。
- 中国の司法戦略の有効性
中国は国内制度を巧みに利用しながら、WTOルールの範囲内で自国企業の競争力を守ることに成功しています。
- 透明性問題の火種
今後、透明性を巡る新たな紛争や、さらなる国際交渉の場が必要になる可能性があります。
今後の展望
EUがこの結果に納得せず上訴する可能性もありますが、現状では中国のスタンスが一定程度国際的にも認められた形です。これにより、グローバルな知財保護秩序における力学が微妙にシフトする可能性が出てきました。特に、今後の5G・6G関連技術のライセンス交渉や紛争に与える影響は無視できないでしょう。
今回のケースは、「国際ルールの解釈を巡る攻防」の重要な一例として、今後も注視が必要です。