中国市場に進出する日系企業の技術戦略を読み解く上で、興味深い調査結果が公表されました。
リスクモンスター株式会社の連結子会社である利墨(上海)商務情報咨詢有限公司が発表した「第2回中国日系企業の特許保有数ランキング」です。本調査は、2025年4月時点で法人登記されている27,148社の日系企業を対象に、中国における特許保有状況を分析したものです。
前回調査(2024年)から約1年の間に、中国市場、とりわけ自動車産業を中心とした製造業の競争環境は大きく変化しました。その中で、日系企業の特許保有数がどのように推移したのかは、単なる知財データにとどまらず、各社の事業戦略や研究開発方針を映す鏡ともいえます。
特許保有企業は減少、それでも中国市場から撤退しているわけではない
今回の調査によると、特許を保有している日系企業は2,670社で、全体の9.8%に相当します。これは前回の2,786社からやや減少しています。一見すると、中国市場における技術投資が後退しているようにも見えますが、必ずしもそう単純ではありません。
むしろ、この減少は「出願数を積み上げる戦略」から「特許ポートフォリオを選別・最適化する戦略」への移行を示している可能性があります。特許を持つこと自体よりも、どの特許を残し、どこで活用するかが重視される局面に入ったと考えられます。
業種別に見ると、自動車は依然トップだが構造変化が進行
業種別の特許保有数では、製造業が引き続き上位を占めています。中でも「自動車製造業」は12,733件でトップを維持していますが、前回調査からは減少しています。中国EVメーカーとの競争激化、技術の世代交代、開発テーマの集中などが背景にあるとみられます。
一方で、「汎用設備製造業」(10,039件)、「電気機械器具製造業」(7,488件)も引き続き高水準を保っています。さらに注目すべきは、研究開発部門における特許保有数が増加している点です。これは、生産拠点としての中国から、研究・開発拠点としての中国へと役割が進化していることを示唆しています。
親会社別ランキングに見る、企業ごとの明確な戦略差
親会社別の特許件数ランキングでは、パナソニックホールディングスが4,665件で1位となりました。安定した研究開発基盤を中国でも維持していることがうかがえます。
一方、日産自動車や本田技研工業も上位に名を連ねていますが、全体的には特許件数が減少傾向にあります。特に日産は1,775件の大幅減少が目立ち、技術領域の整理や拠点機能の見直しが進んでいる可能性があります。
対照的に、トヨタ自動車は特許件数を228件増加させており、中国市場においても技術開発を積極的に継続する姿勢が明確です。同じ自動車メーカーであっても、戦略の取り方が大きく異なることが浮き彫りになっています。
「増えた企業」と「減らした企業」が語るもの
特許増加数に注目すると、日系自動車メーカーの中国現地法人が上位を占めています。日産の現地法人は203件増加し、トヨタやホンダも着実に新規特許を積み上げています。これは、競争が激しい分野において、必要な技術領域へ集中的に投資している結果といえるでしょう。
一方で、特許保有数を大きく減らした企業も存在します。例えば、東レの現地法人では約1,000件の減少が確認されています。これは必ずしも技術力の低下を意味するものではなく、不要となった特許の整理や、グローバル全体での知財再編の一環と捉えるのが妥当でしょう。
数から質へ――中国市場で問われる知財戦略の本質
今回の調査から明らかになったのは、日系企業の中国における特許保有数は全体として減少している一方で、研究開発そのものが弱まっているわけではない、という点です。むしろ、特許の「数」よりも「質」や「使い道」が厳しく問われる段階に入っています。
競争が激化する中国市場においては、特許を闇雲に増やすのではなく、重点技術に資源を集中し、各拠点の役割を明確にした上で特許を「整理・集約」していくことが重要になります。これは知財部門だけでなく、経営戦略そのものと直結するテーマです。
おわりに
中国市場で日本企業が引き続き存在感を発揮していくためには、環境変化を正確に読み取り、自社の技術と特許をどこに、どのように配置するかを見極めることが欠かせません。
今回の特許保有数ランキングは、その判断材料として非常に示唆に富むものといえるでしょう。
なお、ランキングの詳細や調査方法については、リスクモンスターが提供する公式情報をご参照ください。
