中国自動車特許データから読み解く「量から質」への転換と産業構造の変化

2025年の中国自動車産業における特許動向は、単なる数字の増減にとどまらず、産業全体の戦略転換を鮮明に映し出しています。中汽信息科技が発表した最新の分析結果からは、「量より質」への明確なシフトと、完成車メーカーと部品メーカーの立ち位置の変化が浮かび上がってきます。本稿では、その背景と今後の示唆について考察します。

特許件数減少が意味するものは「後退」ではない

2025年の中国における自動車特許公開件数は前年比で約4%減少しました。一見すると研究開発活動の停滞を想起させますが、内容を詳しく見ると異なる景色が見えてきます。発明特許の比率が上昇し、実用新案が大きく減少している点は、企業が短期的・周辺的な技術よりも、中長期的な競争力を左右する中核技術に注力し始めていることを示しています。

特許の「数」を追うフェーズから、「価値」を積み上げるフェーズへと移行していると捉えるのが妥当でしょう。これは中国自動車産業が成熟段階に入りつつある証左とも言えます。

完成車メーカーと部品メーカーの明暗

今回の分析で特に興味深いのは、完成車メーカーと部品メーカーの動向の違いです。完成車メーカーの特許公開件数が減少する一方で、部品メーカーは微増となりました。その中心にあるのが動力電池分野です。

電動化競争の核心を握る動力電池メーカーは、技術革新を成長の源泉と位置付け、研究開発投資を継続的に拡大しています。完成車メーカーが価格競争、いわゆる「内巻」による収益圧迫を受け、研究開発投資に慎重になる中で、部品メーカー、特に電池関連企業が技術面で主導権を強めている構図が浮かび上がります。

これは、完成車メーカーが今後「統合力」や「ブランド力」で差別化を図る一方、技術の源泉が部品サプライヤー側にシフトしていく可能性を示唆しています。

新エネルギー車分野に集中する研究開発リソース

技術分野別では、新エネルギー車(NEV)とインテリジェントコネクテッドカーが全体の約半分を占め、中国自動車産業の二大戦略領域であることが改めて確認されました。中でも新エネルギー車分野は着実に特許件数を伸ばしており、動力電池システムが過半を占めています。

充電システムやモーター駆動システムを含めると、エネルギーと駆動に関わる領域で7割以上を占めている点は象徴的です。一方、PCUやEVシャシーといった重要ながらも難易度の高い基盤技術は、まだ特許比率が低く、各社が長期戦を見据えて知財を積み上げている段階にあると考えられます。

インテリジェント化は「単車知能」が主戦場

インテリジェントコネクテッドカー分野では、全体の特許件数は減少したものの、内容はより洗練されています。センシング、車載ソフトウエア、統合制御といった単一車両の知能化に関する技術が依然として中心であり、当面は車車間・路車間連携よりも「一台のクルマをどこまで賢くできるか」が競争の軸であることが分かります。

これは、自動運転の社会実装に向けて、まずは個々の車両の完成度を高める必要があるという、現実的な技術戦略を反映していると言えるでしょう。

中国自動車産業が向かう次の段階

今回の特許データが示しているのは、中国自動車産業が成長一辺倒の時代を終え、選択と集中の時代に入ったという事実です。過度な競争環境の中で、すべての企業が同じように研究開発投資を続けることは難しくなっています。その結果、資本力と技術戦略を明確に持つ企業に、知財と技術が集約されていく流れが加速するでしょう。

今後は、特許件数の多寡よりも、どの技術領域で、どのレベルの知財ポートフォリオを構築しているかが、企業価値を左右する重要な指標となっていくと考えられます。今回の分析は、その転換点を示す一つのマイルストーンと言えるのではないでしょうか。