韓国大法院が示した「ブランド保護」と「所有者の自由」の新たな境界線
韓国・ソウル江南(カンナム)で高級ブランド品の修理・リメイクを手がける業者が、ルイ・ヴィトンとの商標権訴訟で勝訴しました。大韓民国大法院(最高裁)は、個人使用を目的とした高級ブランド品のリメイクは商標権侵害に当たらないとの判断を示しました。リフォーム行為そのものが商標権侵害に当たらないと明確に述べたのは、今回が初めてです。
本件は、ブランド保護のあり方だけでなく、消費者の所有権、表現の自由、さらには環境持続可能性といった論点を含む重要な判決といえます。本稿では、判決の内容とその意味について整理し、今後の影響を考察します。
事件の概要
問題となったのは、リフォーム業者「江南社」の代表イ・ギョンハン氏が、2017年から2021年にかけて提供していたサービスです。顧客から預かったルイ・ヴィトンのバッグを解体し、生地や金属部品を再利用して別のバッグや財布へと作り替えていました。制作費は1点あたり10万〜70万ウォンとされています。
これに対し、ルイ・ヴィトン側は2022年、リフォーム後の製品にも自社ロゴが残っていることを問題視し、商標権侵害として提訴しました。
1審・2審では、リフォーム製品が独立した交換価値を有する「商品」に当たると判断され、イ氏に1500万ウォンの損害賠償が命じられていました。
大法院の判断のポイント
大法院第2部は原審を破棄し、事件を特許法院に差し戻しました。その判断の核心は次の点にあります。
「市場流通」の有無が分水嶺
大法院は、リフォーム製品が市場で流通せず、個人的用途に限定される場合には商標権侵害は成立しないと判断しました。
商標権は本質的に、商品の出所表示機能を保護し、公正な競争秩序を維持するための制度です。したがって、個人の私的領域にとどまる使用は「公正な競争秩序」と密接な関連を持たないというのが今回の論理構成です。
これは、商標法の目的論的解釈に基づく整理といえます。
所有権と表現の自由への配慮
大法院はさらに、リフォーム行為を以下の観点からも評価すべきだと述べました。
- 所有権の行使
- 表現の自由
- 資源循環を通じた環境持続可能性
これは単なる商標法の技術的判断にとどまらず、憲法的価値や社会的要請を考慮した包括的判断である点が特徴的です。
特に「資源循環」という観点に言及した点は、サステナビリティを重視する現代的価値観を司法が取り込んだものとして注目されます。
ただし「販売・流通」は別問題
一方で、大法院は重要な限定も示しました。業者が単なる修繕や個人向けリフォームを超え、自らの製品として販売・流通させた場合には商標権侵害が成立し得ると明言しています。
つまり、
- 私的利用の範囲 → 原則として侵害不成立
- 商業的流通 → 侵害成立の可能性
という明確な線引きを示したことになります。
本判決の意義
「アフターマーケット」の法的位置づけの明確化
ブランド品の修理やカスタマイズは、世界的にも拡大しているアフターマーケットの一分野です。今回の判決は、その活動のうち「私的領域」に属する部分について一定の法的安定性を与えました。
零細業者や消費者にとっては、大きな安心材料となります。
ブランド保護とのバランス
他方で、ブランド側の懸念も理解できます。高級ブランドは品質管理やブランドイメージを厳格に維持することで価値を構築しています。無制限なリメイクや再販売が横行すれば、出所表示機能やブランド価値が毀損される可能性があります。
今回の判決は、そのバランスを次のように整理したといえます。
- 市場競争に影響を与えるかどうか
- ブランドの出所表示機能を害するかどうか
この二軸を基準に線引きを行った点が実務的にも重要です。
サステナビリティ時代の知財法
高級ブランド品は耐久性が高く、長期使用が前提の商品です。これを修理・再利用することは、循環型経済の観点からも合理性があります。
知的財産権が過度に強く解釈されれば、修理や再利用が阻害され、結果として廃棄を促進する可能性があります。今回の判決は、そのような過度な権利拡張を抑制する方向性を示したとも評価できます。
今後の展望
本件は差し戻し審に移行しますが、大法院の法理は今後の指針となります。
今後の焦点は以下の点になるでしょう。
- 「個人的用途」の範囲の具体化
- SNS投稿などが「流通」に当たるかどうか
- リメイク後にロゴが残ることの評価
また、他国の裁判所が同様の問題にどう向き合うかも注目されます。グローバルブランドにとっては、各国で異なる判断が出る可能性もあります。
おわりに
今回の判決は、「ブランドの独占的保護」と「所有者の自由な利用」という二つの価値の衝突に対し、私的領域を尊重する方向で一つの回答を示しました。
ブランド価値の保護は重要です。しかし同時に、消費者が自ら所有する物をどのように使うかという自由もまた尊重されるべきです。
今回の韓国大法院の判断は、その両者の均衡点を模索する試みとして、今後の知的財産法実務に少なからぬ影響を与えるものになるでしょう。
