はじめに
世界中で「大手プラットフォーマーに公正な競争を求める」動きが強まっています。その最先端にあるのがEUのデジタル市場法(DMA)であり、日本でも今年12月に「スマホソフトウェア競争促進法」(スマホ新法)が施行されます。
本記事では、DMAがアップルに突きつけている規制と、その影響で「ライブ翻訳」などの機能が提供されない背景を整理した上で、日本における議論の行方を考察します。
EUでのDMA ― 「相互接続性」の名のもとに
DMAの狙いは「相互接続性の確保」と「支配的プラットフォーマーの独占是正」です。
アップルに対しては、以下のような要求が突きつけられています。
- iOS通知内容の外部提供
- Wi-Fi接続履歴の共有
- 近接ペアリングや自動オーディオ切替の技術公開
これらは一見「公正競争」のために必要に見えますが、ユーザーのプライバシーやセキュリティに直結する情報です。アップルは「プライバシーを軽視する要求」と強く反発しており、結果としてEUのユーザーだけが一部機能を使えない事態となっています。
アップルの論点 ― 「遅らせ、薄める」リスク
アップル幹部のジョズウィアック氏は次のように語ります。
- 標準化団体を通じた相互接続は歓迎するが、即時に他社へ技術提供するのは現実的でない。
- 独自開発した差別化技術を「無償で他社に公開せよ」というのは不公平。
- 強制的な開放は、結果的に「技術の進歩を遅らせ、機能を薄める」リスクを孕む。
つまり、DMAが目指す「公平性」は、アップルにとっては「イノベーション阻害」と映るのです。
日本のスマホ新法 ― 同じ轍を踏むのか?
ここで日本の「スマホソフトウェア競争促進法」が注目されます。
アップルは「他の政府も同じ間違いを犯すかもしれない」と警告を発しました。これは、日本の規制当局に対する圧力とも取れる発言です。
ただし現時点での日本のルールは、DMAほど強権的ではなく、より「合理性」を重視して策定されていると見られます。したがって、EUのように新機能がごっそり消えるリスクは低いかもしれません。しかし、アップルが楽観視していないのも事実です。
考えるべき論点
今回の事例は「公正競争」と「ユーザー利益」の両立がいかに難しいかを浮き彫りにしています。
- 競争確保のための技術開放は必要だが、プライバシー情報の強制共有は本末転倒。
- 標準化の推進は重要だが、独自技術のインセンティブ喪失を避ける工夫が必要。
- 日本は「世界の範」となるよう、バランスのとれた運用を設計できるかどうかが問われます。
結論 ― 「世界の範」になるか、日本の選択
EUのDMAは確かに大胆ですが、その副作用としてユーザーが本来享受できる機能を失わせています。
日本のスマホ新法は、その轍を踏むのか、それとも「公平性とユーザー利益の両立」を実現できるのか。まさにここが分水嶺です。
私たちが期待すべきは、「規制のための規制」ではなく、ユーザー体験と競争環境を両立させる制度設計です。日本がそのモデルケースを世界に示せるかどうかに注目したいところです。