模倣品対策は安全保障と市場健全化の両輪――アイコムのタイ摘発協力が示す企業責任の進化

無線通信機器メーカーであるアイコムが、タイ国家放送通信委員会(NBTC)の要請を受け、現地での模倣品摘発に協力したというニュースは、単なる知的財産権侵害対策を超えた重要な意味を持っています。本件は、企業が自社ブランドを守る活動が、結果として公共の安全や市場秩序の維持に直結することを改めて示す事例だと言えるでしょう。

今回の摘発では、NBTCが2025年7月にバンコク都内の企業を捜索し、約2万台に及ぶ認可外トランシーバーを含む多数の通信機器の模倣品を押収しました。これらは無線通信法や商標法、公文書偽造法に違反するものであり、関係者が逮捕されています。特に注目すべきは、基準を満たさない通信機器が流通すること自体が、通信障害や事故のリスクを高め、社会インフラの安全性を脅かす点です。NBTCが強調するように、模倣品摘発は消費者保護だけでなく、健全な正規流通を守る経済的施策でもあります。

現地報道によれば、押収された模倣品の多くはオンラインショップで不自然に安価に販売されていたとされています。アイコムは、現地販売店からの要請に応じ、代理人や販売店とともに倉庫で現物確認を行うなど、捜査に実務レベルで協力しました。このようなメーカー自身の関与は、行政による摘発の実効性を高めると同時に、模倣品流通に対する強い抑止力として機能します。

タイにおいては、2021年にも法務省特別捜査局(DSI)が模倣品業者を摘発し、アイコムが感謝状を贈るなど、官民連携の実績が積み重ねられてきました。さらに、2024年にはレバノンで模倣品が関与した爆発事故が発生しており、模倣品が単なる「安価な代替品」では済まされない、安全上の重大リスクを内包していることが世界的に認識されつつあります。

アイコムは2025年6月にも、アジアを中心とする電子商取引サイトで確認された4,500件以上の模倣品出品を排除したと発表しており、展示会での啓発活動も含め、対策を多層的に進めています。ここから見えてくるのは、模倣品対策が一過性の対応ではなく、継続的な経営課題として位置づけられているという点です。

今回のタイでの摘発協力は、企業が自社の知的財産を守る行為が、結果として消費者の安全確保や市場の健全化、さらには国際的な信頼の構築につながることを示しています。グローバルに事業を展開する企業にとって、模倣品対策はコストではなく、社会的責任と企業価値を高める投資であることが、ますます明確になってきていると言えるでしょう。