韓国大法院が、海外にのみ登録された特許権であっても、その技術が韓国内で実質的に使用されている場合には国内源泉所得に該当し、課税対象となるとの判断を改めて示しました。本件は、グローバル企業間の特許クロスライセンス契約と国際課税の交差点に位置する重要な事例です。企業実務や国際税務戦略に与える影響は小さくありません。本稿では、本判決の概要と法的論点、そして今後の実務への示唆について考察します。
事案の概要:LGエレクトロニクスとAMDの特許和解
本件は、LGエレクトロニクスとアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)との特許紛争に端を発します。
2017年、両社は訴訟を終結させ、相互に保有特許を使用できるクロスライセンス契約を締結しました。内容は以下の通りです。
- LG側保有:米国特許4件
- AMD側保有:米国特許12件(子会社ATI名義を含む)
- LGがAMDに対しロイヤルティー9,700万ドルを支払う
LGはこのロイヤルティーについて、法人税164億2,000万ウォンを源泉徴収し納付しました。しかしその後、AMD側特許は韓国未登録の米国特許であるため、韓米租税条約上、国内源泉所得に該当しないとして更正請求を行いました。
争点:未登録外国特許のロイヤルティーは国内源泉所得か
本件の核心的争点は次の一点に集約されます。
韓国に登録されていない外国特許の使用対価を、韓国法人税法および韓米租税条約に基づき国内源泉所得とみなせるか。
一審・二審はLGの主張を認め、「国内未登録特許の使用対価は国内源泉所得ではない」と判断しました。
しかし、大法院はこれを破棄差戻しとしました。
大法院の判断:形式よりも「実質的使用地」
大法院第1部は、次のような趣旨を明確にしました。
- 特許の登録地は決定的要素ではない
- 重要なのは特許技術が実質的に使用された場所である
- 国内で製造・販売等に使用されているなら国内源泉所得に該当する
つまり、「登録地主義」ではなく「実質使用地主義」を採用したことになります。
この判断は、昨年9月の大法院全員合議体判決と同趣旨であり、判例法理が確立されたといえます。
法的意義:源泉地課税原則の再定義
国際課税においては、「どの国が課税権を持つか」が最大の論点です。租税条約上、ロイヤルティーの源泉地は通常、使用地によって決まります。
本判決は、次の点で重要です。
租税回避防止的機能
もし登録地のみで源泉地を判断すれば、特許を特定国にのみ登録することで課税を回避できる可能性があります。実質使用地を基準とすることで、形式的操作による租税回避を防止する効果があります。
デジタル・無形資産時代への対応
現代経済では、無形資産の価値が企業価値の中核を占めます。技術の物理的所在地よりも、経済活動の実態に即して課税するアプローチは、BEPS(税源浸食・利益移転)対策とも整合的です。
企業実務への影響
本判決は、特に次のような企業に大きな影響を及ぼします。
- 多国籍企業のクロスライセンス契約
- 技術導入契約・OEM契約
- グローバル知財戦略を展開する製造業
今後は、単に「どの国で特許登録しているか」ではなく、
- 技術がどこで製造工程に組み込まれているか
- 製品がどこで販売されているか
- 経済的価値がどこで実現しているか
といった実態分析が不可欠になります。
ロイヤルティー契約締結時には、課税リスク評価をより精緻に行う必要があります。
今後の展望
本判決により、韓国においては「特許登録地基準」は事実上後退し、「実質使用地基準」が明確化されました。
今後想定される論点としては、
- ソフトウェアやAI技術のような非物理的利用の場合の使用地認定
- クラウド環境における技術使用の源泉地判断
- 複数国で同時使用される技術の按分課税
などが挙げられます。
無形資産の国際取引が拡大する中で、各国が「実質」に着目した課税強化を進める可能性は高いと考えられます。
まとめ
今回の大法院判決は、「特許はどこに登録されているか」ではなく、「技術がどこで実際に使われているか」が課税判断の決定要素であることを明確にしました。
これは単なる一企業の税務紛争ではなく、国際知財戦略と国際課税実務の接点における重要な指針です。
今後、グローバル企業は知財管理と税務戦略を切り離して考えることはできません。形式より実質という原則が、無形資産課税の中心軸として定着しつつあることを、本判決は強く示しているといえるでしょう。
