海外発送対応の「ヴァンガードプリンセスR」と裁定制度 ― 知財制度の境界線を問う

はじめに

2009年にスゲノトモアキ氏が公開したフリー格闘ゲーム『ヴァンガードプリンセス』。同人発の作品としては異例の注目を集めた本作ですが、長らく作者の消息が途絶えたまま、2024年にexA-Arcadiaが「裁定制度」を活用して発表したのが『ヴァンガードプリンセスR』です。
ところが、この「裁定制度」の前提条件と、exA-Arcadia公式サイトで確認された海外発送対応が齟齬をきたしている可能性が浮上しています。

裁定制度とは何か

文化庁の裁定制度は、著作権者不明の作品を日本国内で利用する際にのみ認められる救済措置です。

  • 著作者と連絡が取れない
  • 相当な努力をしても権利者不明
  • 裁定を受け、補償金を供託する

これらの条件を満たすことで、国内限定で作品利用が可能になります。制度趣旨からして「国外利用」を前提にしていません。

exA版の販売形態

国内代理店では日本限定販売とされている一方、exA-Arcadiaの英語公式サイトでは以下のような状況が確認されています。

  • 英語の商品説明
  • 海外発送対応の予約注文フォーム
  • ゲーム本体も英語対応

VPN経由で米国IPからも購入画面に進めることが報告されており、設定ミスなのか、意図的に国外販売を想定しているのかは現時点で不明です。

問題となり得る論点

  • 制度適用範囲との齟齬

裁定制度は「日本国内のみ」を条件としています。国外から購入できる仕組みが整ってしまうと、制度の枠組みを超えた利用と解釈されかねません。

  • 知財管理の透明性

exA-Arcadiaや代理店は国内限定販売と説明していますが、公式通販ページの仕様と矛盾があることで、利用者や関係者に混乱を招く恐れがあります。

  • 今後の制度運用への影響

裁定制度は文化庁が「孤児作品」活用のために整備したものですが、こうした事例が問題化すれば、制度全体の信頼性や国際的評価に影響しかねません。

おわりに

『ヴァンガードプリンセスR』のケースは、裁定制度の実効性と限界を浮き彫りにしました。果たしてこれは単なる通販サイトの設定ミスなのか、それとも制度の解釈に揺らぎを与える先例となるのか。
今後の販売動向や文化庁の対応は、ゲームファンのみならず知財関係者にとっても注視すべきトピックとなるでしょう。