2025年5月28日、扶桑薬品工業は2025年3月期の単独決算を訂正し、当初発表していた27億円の黒字から一転して32億円の赤字に陥ったことを明らかにしました。その最大の要因は、前日に知的財産高等裁判所(知財高裁)が下した特許侵害訴訟の判決に伴う87億円の特別損失です。
問題となったのは、扶桑薬品が販売していたかゆみ改善薬の後発医薬品が、東レが保有する用途特許を侵害していたとされた件です。知財高裁は、扶桑薬品に対して約74億円の損害賠償金と遅延損害金の支払いを命じました。これに対し同社は、「判決内容は承服しかねる」として、最高裁への上告を準備中です。
今回の訴訟は扶桑薬品だけでなく、同様の後発薬を扱っていた沢井製薬にも波及し、こちらには約142億円の賠償命令が下されています。サワイグループホールディングスの2025年3月期の連結純利益は229億円で、訴訟の影響が来期業績に及ぶことは避けられません。
知財リスクと企業戦略の再考
この事件は、特許リスクが製薬企業の経営に与えるインパクトの大きさを改めて浮き彫りにしました。特に用途特許は見落とされやすく、後発薬企業にとって判断の難しい領域です。今回の件では、販売の継続が結果的に高額な損害賠償へとつながりました。
今後、製薬企業には一層慎重な特許調査と法務体制の強化が求められます。後発薬市場の競争が激しさを増す中で、コスト削減だけでなく、知財面でのリスク回避こそが企業価値を守る鍵となるでしょう。
最高裁での判断がどう下されるかに注目が集まる一方で、医薬品業界全体にとっても、特許と競争のバランスをどう取るかという根本的な問いが改めて突きつけられています。