米連邦裁が恒久的販売禁止命令――光半導体特許を巡る国際紛争が示す「技術主権」と知財戦略の重み

ドイツの光半導体専門企業であるレーザーコンポーネンツが、韓国のソウル半導体の孫会社であるSensor Electronic Technology, Inc.(SETi)の特許を侵害したとして、アメリカ合衆国連邦裁判所が恒久的販売禁止を命じたとの報道がありました。

本件は単なる特許侵害訴訟にとどまらず、光半導体という戦略的分野における技術主権、さらには国家安全保障の観点とも交錯する、示唆に富む事案といえます。本稿では、本判決の法的・技術的・産業政策的な意義について考察します。

判決のポイント――「恒久的販売禁止」と効力の広がり

今回、米連邦裁判所は、侵害技術を用いた製品の製造・販売・輸入の恒久的禁止を命じました。特筆すべきは、その効力が当該企業のみならず、役員・従業員、さらには侵害に協力または関与した第三者にまで及ぶと明示された点です。

米国特許法においては、差止命令(injunction)が認められるためには一定の要件を満たす必要がありますが、本件では特許の有効性と侵害の成立が強く認定されたことがうかがえます。
恒久的差止が認められたという事実は、当該特許の技術的価値および市場への影響の大きさを裏付けるものといえるでしょう。

問題となった特許技術――光子生成効率の最適化

SETiが保有する特許の核心は、半導体内部の電流制御および層構造の最適化により、光子(フォトン)の生成量を最大化し、内部損失を最小限に抑えるという性能向上技術にあります。

光半導体とは何か

光半導体は、電気エネルギーを光エネルギーに変換するデバイスであり、LEDやレーザーダイオードが代表例です。
特にSETiは、深紫外LED(Deep UV LED)の開発・商用化で知られています。

この種の技術は、以下のような先端分野への応用が期待されています。

  • ARグラス(拡張現実デバイス)
  • 高帯域幅メモリ(HBM)関連技術
  • 高精度センサー用途
  • 殺菌・医療用途(深紫外LED)

光子生成効率の向上は、単なる性能改善ではなく、消費電力・発熱・小型化・寿命といったデバイス設計の根幹に直結します。その意味で、本件特許は将来の中核技術の一つと位置付けられているのです。

背景にある「投資」と「稼働率」の問題

SETiのCEOは、過去25年間で数億ドルを投資してきたにもかかわらず、現在の稼働率が1割未満であるという厳しい状況を明らかにしています。

技術集約型産業では、研究開発投資と製造設備投資が巨額にのぼります。その成果が特許によって保護されなければ、低価格の模倣品が市場を席巻し、研究開発型企業の事業基盤が揺らぐ可能性があります。

ここで浮かび上がるのは、「知財は単なる権利ではなく、産業基盤を支える制度インフラである」という事実です。

国家安全保障と技術主権

CEOが「国家安全保障の観点」に言及した点も注目に値します。

近年、半導体は明確に戦略物資と位置付けられています。
特に光半導体は、通信、軍事、宇宙、防衛、先端コンピューティングに不可欠な基盤技術です。

もし中核特許が適切に保護されず、あるいは外国企業に売却される状況が続けば、技術主権の喪失につながりかねません。
本件は、企業間紛争であると同時に、国家間の産業競争構造の一断面ともいえるでしょう。

国際的サプライチェーン時代の知財リスク

本件の構図は、

  • 韓国系企業グループ
  • 米国子会社(SETi)
  • ドイツ企業(レーザーコンポーネンツ)
  • 米国連邦裁判所

という多国籍的な関係にあります。

グローバルサプライチェーンが高度に分業化する中で、特許侵害は国境を越えて発生します。
特に米国市場に製品を供給する企業にとって、米国特許の侵害リスクは極めて重大です。恒久的販売禁止は、事実上の市場撤退を意味する場合もあります。

今後、光半導体分野では、

  • クロスライセンス交渉の活発化
  • 特許ポートフォリオの防衛的構築
  • 米国市場を意識したFTO(Freedom to Operate)分析の徹底

が一層重要になると考えられます。

本件が示唆するもの

本件判決は、以下の三点を示しているように思われます。

  • 光半導体は戦略的基幹技術であること
  • 研究開発投資を回収するためには強固な特許保護が不可欠であること
  • 差止命令は企業活動に決定的な影響を及ぼし得ること

特許は単なる法的権利ではなく、技術競争における「攻守の要」として機能します。
特に半導体のような高付加価値分野では、特許戦略そのものが企業の存立基盤を左右します。

おわりに

光半導体市場は今後、AR、AI、次世代メモリ、量子関連技術などと結び付きながら急速に拡大する可能性があります。その中で、本件のような強力な差止判決が示されたことは、知財戦略の重要性を改めて浮き彫りにしました。

技術革新が加速する時代において、「誰が技術を持つのか」だけでなく、「誰がその技術を守り切れるのか」が、企業と国家の競争力を左右する局面に入っているといえるでしょう。