言語政策が国際貿易の最前線に?
国境を越えたビジネスの現場で、言葉の違いは時にチャンスにもなり、また壁にもなります。今回、米国が問題視しているのは、カナダ・ケベック州が推進するフランス語の使用義務化政策――いわゆる「州法96号」です。
この法律は2022年に可決され、2025年6月には新たな規定が発効します。企業に対して仏語での接客や文書作成を義務付け、商標にも仏語表示を求める内容は、ケベック州の文化保護の一環として推進されてきました。しかしこの政策に、米通商代表部(USTR)が「貿易障壁」として警鐘を鳴らしています。
文化保護 vs. 貿易自由化
ケベック州は長年、独自の言語と文化を守る姿勢を示しており、それ自体は国内外から一定の理解を得てきました。しかし、言語を「義務」として企業活動に強制することで、他国の企業にとって新たな負担が発生するのも事実です。特に商標やラベルの仏語翻訳が求められることは、米国企業にとってコスト増に直結します。
これに対し、米国は「非関税障壁」と見なして強く反発。トランプ政権下で検討されている「相互関税」の対象に、このような国内法が含まれる可能性も出てきました。言語政策が、関税報復の引き金になるという構図は、極めて複雑な問題をはらんでいます。
言葉の壁をどう乗り越えるか
グローバル化が進む中で、文化や言語の多様性を尊重する一方、貿易の円滑化も求められます。ケベック州の方針は文化アイデンティティの強化には貢献するかもしれませんが、国際ビジネスの現実とどう折り合いをつけていくかが問われています。
カナダのカーニー首相は「文化は交渉材料にしない」と明言しましたが、米国が貿易制裁に踏み切れば、ケベック州の文化保護政策が意図せずして全国的な経済摩擦を生む可能性も否定できません。
結論:文化と言語の保護は、国際調整とセットで考えるべき
言語はアイデンティティであると同時に、ビジネスのツールでもあります。ケベックのように自らの文化を守る姿勢は尊重されるべきですが、その実現方法が国際基準と対立する場合には、調整と対話が不可欠です。
今後、この問題がどのように推移するかは、単なる貿易問題にとどまらず、「多言語世界における共存のあり方」を私たちに問いかける重要なケースになるかもしれません。