“誰もが働ける社会へ”──オムロンが切り拓く共生のモノづくり革命

技術の壁を、心のバリアを越えて

2025年5月14日、オムロンは福祉工場「オムロン太陽」で生まれた“ユニバーサルものづくり(ゆにもの)”に関する特許20点の無償開放を発表しました。この発表は、単なる知的財産の公開を超え、「誰もが活躍できる社会」への実践的なメッセージとして大きな意義を持っています。

ゆにものとは何か:モノづくり×インクルージョン

“ゆにもの”とは、障害のある人もない人も、それぞれの能力を最大限に発揮できる職場環境をつくるための仕組みです。現場における治具やマニュアルの工夫から、自己成長を支援する制度設計に至るまで、現実に根ざした改善が積み重ねられてきました。

このアプローチの本質は「人を中心に据えたモノづくり」。つまり、技術が人を選ぶのではなく、人に技術を合わせるという逆転の発想が貫かれているのです。

開放された特許の意義:小さな技術に宿る大きな価値

今回無償公開される特許の中には、例えば以下のような現場発の工夫があります。

  • 捺印治具

位置ずれや力加減のばらつきを抑え、誰でも均質に作業ができるように。

  • ストッパー椅子

立ち上がり時に椅子が不意に回転するのを防ぎ、転倒リスクを軽減。

これらは一見小さな改良に見えますが、「できない」を「できる」に変える力を持っています。そしてその積み重ねが、「誰もが安心して働ける社会」への礎となるのです。

特許の無償開放がもたらす社会的インパクト

オムロンの特許開放には、次のような波及効果が期待されます。

  • 他企業・施設での活用促進

他の製造現場や福祉施設がこれらの技術を導入することで、職場のバリアフリー化が一気に進む。

  • SDGs(持続可能な開発目標)への貢献

特に「目標8:働きがいも経済成長も」や「目標10:人や国の不平等をなくそう」との強い親和性。

  • 知財戦略の転換点

独占から共有へという流れは、社会価値創造型の知財戦略への転換を象徴しています。

“技術”の再定義──誰のための技術か?

私たちはこれまで「高度な技術」や「革新性」といった視点で技術を評価してきました。しかし、オムロン太陽が示す“ゆにもの”の哲学は、「やさしさこそが技術の本質」であると教えてくれます。

働きづらさを抱える人が、その人らしく、安心して活躍できるための技術。それは、すべての働く人にとっての安心と信頼の基盤にもなります。

共生の未来へ向けて

オムロンが無償開放した「ゆにもの」特許は、単なるツールの提供ではありません。それは「共に生きる社会」を共につくるための招待状です。

企業の社会的責任が問われる現代において、こうした取り組みは、倫理と経済を両立させる“新しい価値創造”の模範となるでしょう。

これからのモノづくりは、人のちがいを受け入れ、活かし合うことから始まるのです。