韓国関税庁が発表した、昨年1年間で韓国ブランドの偽造品約11万7,000点を摘発したというニュースは、単なる取締実績の報告にとどまらず、現在の国際商取引と知的財産保護が直面している構造的課題を浮き彫りにしています。本稿では、このニュースが示す背景と意味、そして今後の展望について考察します。
越境ECの拡大がもたらした「少量・分散型」偽造品流通
今回の摘発で特徴的なのは、偽造品が一般貨物と特送貨物の双方から、ほぼ均等に見つかっている点です。これは、電子商取引の活性化により、個人輸入を装った少量貨物が急増している現状を如実に反映しています。
従来の偽造品対策は、大量輸送・業者単位の摘発が中心でした。しかし、越境ECの普及により、
- 1件あたりの数量は少ない
- 発送件数は膨大
- 個人利用を装うケースが多い
という「検知しにくい流通構造」が常態化しています。今回の統計は、関税当局がこの変化を正確に捉え、通関段階での監視を強化していることを示しています。
中国に極端に偏る発送元と、ブランド力の裏返し
発送元の97.7%が中国という結果は、驚きよりも「やはり」という印象を与えます。中国が世界的な製造拠点であること、そして模倣品ビジネスが依然として根強いことを考えれば、ある意味で必然的な数字です。
一方で注目すべきは、偽造対象となったブランドの顔ぶれです。
化粧品分野では Sulwhasoo や Beauty of Joseon、3CE。
ファッション・雑貨では Mardi Mercredi、Gentle Monster、MARITHÉ FRANÇOIS GIRBAUD。
キャラクター・エンタメ分野では Kakao Friends や BTS 関連商品が挙げられています。
これらはいずれも、韓国発ブランドがグローバル市場で確固たる認知と需要を獲得した証拠でもあります。偽造品の増加は被害であると同時に、ブランド力の裏返しでもあるのです。
ハードウェア分野にも及ぶ被害の深刻さ
さらに見逃せないのが、Samsung Electronics や LG Electronics の電子製品・部品が偽造対象となっている点です。
化粧品やキャラクターグッズと異なり、電子製品の偽造は安全性・品質問題に直結します。これは単なるブランド価値の毀損にとどまらず、消費者被害や国際的な信頼低下にもつながりかねません。
中国とのMOUが持つ意味と限界
韓国関税庁が今月、中国と締結した「国境段階の知的財産権保護協力MOU」は、こうした状況への現実的な対応策と言えます。
偽造品対策は、輸入国単独では限界があり、製造・発送段階での抑止が不可欠だからです。
もっとも、MOUはあくまで枠組みです。
実効性を左右するのは、
- 情報共有の具体性
- 現地当局の取締インセンティブ
- 継続的な共同調査
といった運用面にあります。今後、協力がどこまで踏み込めるかが注目されます。
官民連携の強化が示す次のステージ
今回の発表で特に重要なのは、韓国企業が参加する官民協議体を立ち上げる方針が示された点です。
偽造品対策は、行政主導だけでは不十分であり、
- ブランド側の被害情報
- 市場での流通実態
- 技術的な真贋判定ノウハウ
を統合する必要があります。官民連携の制度化は、韓国が「ブランド輸出国」として成熟段階に入ったことを象徴しているとも言えるでしょう。
おわりに――日本にとっての示唆
このニュースは、日本企業や日本の知財行政にとっても他人事ではありません。越境EC、少量貨物、グローバルブランドという条件は、日本ブランドにも完全に当てはまります。
韓国の対応は、アジア発ブランドが世界市場で成功した後に直面する共通課題への、一つのモデルケースとして注目に値します。
偽造品対策は「守り」ではなく、ブランド価値を持続的に成長させるための戦略的インフラです。韓国の動きが、どこまで実効性を伴うのか。今後の展開を引き続き注視していきたいと思います。
