韓国の特許制度が、大きな転換点を迎えています。
知識財産処が発表した「2026年特許審査処理計画」は、単なる審査迅速化策にとどまらず、韓国の産業政策・技術戦略を色濃く反映した内容となっています。
優先審査対象の拡大が意味するもの
今回の計画で特に注目すべき点は、優先審査の対象が従来のAI分野から「フィジカルAI」や合成生物学などへ拡大されたことです。
フィジカルAIは、ソフトウェア中心のAIとは異なり、ロボティクスや製造装置、センサーなどの物理世界と密接に結びついた技術分野です。韓国が強みを持つハードウェア産業との親和性が高く、国家競争力の中核と位置づけられていることがうかがえます。
優先審査の対象に編入するということは、「この分野で早く権利を取れ」という明確なメッセージを国が発しているに等しいといえます。
審査期間短縮は「スピード競争」への本気度の表れ
全体平均の審査待機期間を14カ月に短縮し、優先審査では2カ月程度、超高速審査では1カ月以内という水準を維持・拡大する方針は、国際的に見てもかなり攻めた内容です。
特許は、取得の可否だけでなく「いつ取得できるか」が事業戦略を左右します。特にAIやバイオ分野では、製品化や資金調達、標準化競争のスピードが速く、審査の遅れが致命傷になりかねません。
今回の計画は、特許制度を「権利付与の仕組み」から「成長を加速させるインフラ」へと明確に位置づけ直したものと評価できます。
人員増強と調査予算拡大が示す現実的な対応
注目すべきは、制度設計だけでなく、審査官の新規採用や先行技術調査予算の大幅増額が同時に打ち出されている点です。
先端技術分野では、審査官の専門性と先行技術調査の質が審査結果を大きく左右します。単に「早く処理する」だけでなく、「高品質な特許権を付与する」ことを本気で目指している姿勢が読み取れます。
これは、量と質の両立を図ろうとする、極めて現実的な政策対応といえるでしょう。
審査官と出願人の対話重視という方向性
補正案レビューや再審査面談の柔軟化、面談可能期間の拡大など、出願人とのコミュニケーションを重視する姿勢も印象的です。
先端技術分野では、書面だけでは発明の本質が伝わりにくいケースも少なくありません。対話を通じて技術理解を深め、不要な拒絶や長期化を防ぐという発想は、制度として成熟しつつあることの表れです。
日本を含む周辺国への示唆
この動きは、韓国国内だけの話ではありません。
特許審査のスピードと柔軟性が国際競争力に直結する時代において、各国の特許庁は相互に比較され、選ばれる存在になっています。企業にとっては、「どの国で先に権利を取るか」という戦略判断にも影響を与えるでしょう。
日本を含む周辺国にとっても、韓国のこの取り組みは、特許制度を産業政策の一部としてどう設計するかを改めて考えさせる材料になるはずです。
おわりに
今回の「2026年特許審査処理計画」は、単なる業務改善ではなく、技術先導型成長を本気で支えるための国家戦略の一環といえます。
フィジカルAIやバイオといった分野で、韓国企業がどれだけ早く、どれだけ強い特許網を築いていくのか。今後の国際的な技術競争を占う上でも、引き続き注視すべき動きです。
