森永製菓株式会社が、「チョコモナカジャンボ」のサウンドロゴを音商標として出願し、商標登録されたと発表しました。
「チョコモナカジャーンボ♪」という軽快なメロディーは、2008年からテレビCMなどで使用され、多くの消費者に親しまれてきました。
本件は、単なる話題性のあるニュースではありません。長年にわたり蓄積されてきた“聴覚的ブランド資産”を、法的にも明確に保護する動きとして注目すべき事例です。本記事では、その法的背景とブランド戦略上の意義について考察します。
音商標とは何か
音商標とは、文字や図形ではなく、「音」によって自他商品・役務を識別する商標です。日本では2015年の商標法改正により、音や色彩、位置などの「新しいタイプの商標」が登録可能となりました。
音商標の代表例としては、企業のサウンドロゴ、テレビCMの決まり文句のメロディー、サービス開始音などが挙げられます。視覚情報に依存しないため、ラジオ、動画配信、店頭アナウンスなど多様な接点で機能します。
今回のケースでは、「チョコモナカジャーンボ♪」というメロディー自体が識別標識として認められたことになります。
なぜ今、音を守るのか
「チョコモナカジャンボ」は1972年発売のロングセラー商品です。既に「チョコモナカジャンボ」という文字商標は登録されています。では、なぜ音まで保護する必要があるのでしょうか。
理由は大きく三点考えられます。
- ブランド想起の強さ
人間の記憶は、視覚情報よりも聴覚情報の方が感情と結びつきやすいとされています。
CMで繰り返し流されるサウンドロゴは、無意識レベルで商品想起を促します。音は“瞬間的なブランド接続装置”として機能します。
- 模倣リスクへの対応
象徴的なメロディーは、競合他社に模倣される可能性があります。文字商標だけでは、類似の音によるブランド混同を防ぐことは困難です。音商標登録により、聴覚的模倣行為にも法的対抗手段が生まれます。
- ブランド要素の体系的保護
現代のブランドは、名称、ロゴ、パッケージデザイン、キャラクター、そして音など、複数の要素で構成されています。これらを包括的に保護することは、ブランド資産管理(Brand Asset Management)の観点から合理的です。
森永製菓のコメントにあるとおり、サウンドロゴはブランドを構成する重要な要素であり、登録はその価値を制度的に裏付けるものといえます。
50年ブランドと音の融合
「チョコモナカジャンボ」は発売から50年以上続くヒット商品です。長期ブランドにおいて重要なのは、“変わらない核”と“時代適応”の両立です。
文字商標や商品形態という伝統的資産に加え、2008年から使用されているサウンドロゴがブランド体験の一部として定着しました。今回の音商標登録は、その定着度を裏付ける動きでもあります。
言い換えれば、長年の広告投資によって獲得した識別力が、法的保護に値する水準に到達したということです。
音商標登録の実務的ハードル
音商標は、単に音を出願すれば登録されるものではありません。識別力の有無が重要な判断基準となります。
ありふれた効果音や一般的なメロディーでは、商品識別機能が認められにくいのが実情です。そのため、長期間の使用実績や広告投資による周知性が重要な立証要素となります。
今回の登録は、15年以上のCM使用実績が背景にあると推察されます。長期的なブランド育成の成果が、知的財産として結実した好例といえるでしょう。
ブランド戦略の視点から見た意義
今回のニュースは、「知的財産=防御手段」という従来の発想を超えています。
音商標の登録は、
- ブランド要素の明確化
- 模倣抑止
- 無形資産価値の可視化
- 企業評価向上
といった複合的効果を持ちます。
特に消費財分野では、商品機能の差別化が難しいケースも多く、ブランド体験そのものが競争優位の源泉になります。音は、その体験を構成する重要な知的資産です。
おわりに
今回の森永製菓による音商標登録は、単なる手続的ニュースではありません。
長年育ててきたブランド体験を、聴覚レベルまで含めて制度的に保護する戦略的判断です。
ブランドは「見るもの」から「感じるもの」へと進化しています。そして、その“感じる価値”もまた、法的に守ることができる時代になりました。
音を守ることは、記憶を守ることです。
そして、記憶を守ることこそが、長期ブランド経営の核心であるといえるのではないでしょうか。
