世界知的所有権機関(WIPO)が発表した最新データによれば、2024年の世界の特許出願件数は前年比4.9%増の約372万5千件となり、過去最多を更新しました。首位は中国の約180万件で、米国の約50万件、日本の約42万件が続きます。技術開発の中心がどこにあるのかが数字からも鮮明に浮かび上がってきます。
中国の“圧倒的1位”が意味すること
中国の特許出願件数は世界全体のほぼ半分に迫る規模です。この勢いはもはや一過性ではなく、国家戦略としての技術投資が着実に形になっていることを示しています。特にAI、通信技術、電気機械などの分野での存在感は年々大きくなっています。
一方で、米国と日本は依然として技術大国ではあるものの、量では中国に大差をつけられています。質の議論を抜きに単純比較はできませんが、研究開発投資の集中と政策的な後押しという面では、それぞれ課題も浮かんできます。
インド・フィンランド・トルコの急伸は“新しい潮流”
今回の報告で特に目を引くのは、インド、フィンランド、トルコが大幅に伸びた点です。
- インド:スタートアップとIT産業の成長に伴い、特許出願が本格的に増加。AI・ソフトウェア関連が中心。
- フィンランド:通信・クリーンテック・エッジコンピューティングなどの強みが加速。
- トルコ:政府主導の技術政策が功を奏し、研究開発基盤が拡大中。
特定の大国だけでなく、複数の地域で技術産業が台頭しつつあることは、今後のグローバル競争を分散化させる可能性があります。
コンピューター技術が最も公開されている分野
最新データが揃う2023年時点で、公開件数のトップはコンピューター技術でした。AI、データ処理、ネットワーク技術などのカテゴリーが急拡大しており、電気機械分野がそれに続いています。
この傾向は、デジタル化が産業の基盤になり、ハード・ソフトの境界が薄れつつあることを示します。特にAIモデル、半導体、電動化技術、ロボティクス関連が今後も投資の中心になると予測できます。
商標は微減、デザインは増加――この差の背景
2024年の商標出願は約1523万件でわずかに減少しました。一方、意匠(デザイン)は2.2%増。
ここから見えるのは、消費者向けビジネスが成熟し競争が激化する中で、単なるブランド名よりも「プロダクトの差別化」に比重が移っているという流れです。
ブラジル、インド、ロシアで商標が増えている点は、新興国で新規ブランドが大量に立ち上がっていることの証拠でもあります。ローカル事業者の増加や、内需志向の政策が影響していると考えられます。
世界の技術競争は「多極化」へ
今回のWIPOレポートから読み取れる本質は、単なる出願件数の増減ではありません。
- 中国の圧倒的規模
- 米・日の構造的課題
- インド・フィンランド・トルコの台頭
- コンピューター技術を中心とした技術革新の加速
- 産業構造の変化に伴う商標・デザインの動きの差
これらを総合すると、技術覇権争いは特定の大国だけでなく、複数の地域に広がる「多極化フェーズ」に入っています。
企業にとっては、自国内だけでなく、どの国・地域のイノベーションエコシステムが成長しているかを見極めることが、これまで以上に重要になってきていると感じます。
