近年、人工知能（AI）の進展とともに、著作権法をはじめとする知的財産法の解釈や適用に関する議論が活発化しています。特に、生成AIが著作物を学習し、それを基に新たな作品を生成する過程において、クリエーターの権利保護とAI開発者の自由度とのバランスが重要な課題となっています。
文化庁の小委員会と内閣府の骨子案
文化庁の小委員会は、著作物の非享受目的の使用については引き続き権利制限を適用する方針を示しましたが、享受目的が併存する場合は権利制限の適用を除外することを明確化しました。この方針は、AIによる学習がクリエーターの権利を侵害する可能性を考慮したものであり、AI開発者とクリエーターの間のバランスを取るための重要なステップです。
一方、内閣府の知的財産戦略推進事務局は、著作権以外の意匠法や不正競争防止法に関する課題を整理し、AIによる創作にかかる労力の保護についても議論しています。具体的には、ヨミウリ・オンライン事件のような裁判例を紹介し、労力の保護の可能性を示唆しましたが、損害賠償額の低さから裁判の経済的な効果に限界があることも指摘しています。
業界のガバナンスと政府の役割
これらの動向から見えるのは、法的な枠組みだけでなく、業界全体でのガバナンスが重要になるという点です。文化庁と経済産業省が立ち上げる「AIと著作権に関する関係者ネットワーク（仮称）」は、業界内での対話と協力を促進し、著作物のライセンスや対価還元のあり方を共有する場として期待されています。
特許事務所としての役割
特許事務所として、このような状況に対処するためには、以下の点に留意する必要があります。
最新の法解釈とガイドラインの把握
文化庁や内閣府から示されるガイドラインを迅速に把握し、クライアントに適切なアドバイスを提供することが求められます。
契約の重要性
AI開発者とクリエーターの間での契約のあり方が重要となります。著作物の使用許諾や対価還元の条件を明確にすることで、双方の権利と利益を保護することができます。
業界ガバナンスの促進
特許事務所として、業界内でのガバナンスを支援し、健全なエコシステムの構築に寄与することが求められます。具体的には、業界団体との連携やネットワーク構築に積極的に参加し、クリエーターやAI開発者の声を反映したルール作りを推進します。
リスク管理
クライアントが法的なリスクを回避しつつ、ビジネスを展開できるよう、適切なリスク管理の手法を提案します。特に、著作権侵害のリスクや炎上リスクについての対策が重要です。
特許事務所として、これらの点を踏まえて、AI技術の進展とともに変化する法的環境に柔軟に対応し、クライアントの権利保護とビジネスの発展を支援することが求められます。
