世界知的所有権機関(WIPO)は9月16日、2025年版「グローバル・イノベーション・インデックス(GII)」を公表しました。今年もスイス、スウェーデン、米国、韓国、シンガポールといった“常連組”が上位を占めています。注目すべきは、中国が引き続きトップ10入りを果たし、中所得国の中で突出した地位を維持していることです。
世界の研究開発投資が鈍化
今回の報告書で最も目を引くのは、研究開発(R&D)費の伸びが明らかに減速している点です。2024年の成長率は2.9%と、2010年の金融危機以来の低水準。2025年にはさらに減速すると予測されています。企業R&Dもインフレの影響を受け、実質成長率はわずか1%にとどまり、過去10年の平均4.6%を大幅に下回りました。
背景には、世界的な景気減速、不確実性の増大、地政学リスクなどがあります。特に、半導体やグリーンテクノロジーといった重点分野では引き続き投資が行われていますが、全体的には「選別的な投資」へシフトしている印象です。
ベンチャーキャピタルの冷え込み
もう一つの大きな傾向は、ベンチャーキャピタル(VC)の取引件数が3年連続で減少していることです。2024年の減少幅は4.4%。生成AIやバイオテックといったホットな分野を除けば、投資家の姿勢は慎重になっていることが浮き彫りになりました。これはスタートアップの資金調達環境に直接影響を与え、イノベーションの芽が育ちにくい環境を作り出しかねません。
中国とアジアの存在感
中国は引き続き、研究開発費、ハイテク輸出、知的財産権の出願件数で強い勢いを示しています。韓国やシンガポールといったアジア勢もトップランクに位置し、「イノベーションの中心」が西側先進国だけでなくアジアにも広がっていることを裏付けています。
日本への示唆
今回の報告書は、日本にとっても重要なメッセージを含んでいます。
- R&D投資の鈍化傾向の中で、日本企業はどの分野に資源を集中すべきか?
- VC市場の縮小の中で、スタートアップ支援の仕組みをどう強化するか?
- 知財活用や国際的な標準化戦略を通じて、日本の技術をどう世界に浸透させるか?
イノベーションは単なる「技術開発」ではなく、投資、知財制度、産業政策の総合力によって生み出されます。世界的な逆風の中でも、長期的なビジョンを持った取り組みが求められているのではないでしょうか。