AIによる著作権保護は海賊版対策のゲームチェンジャーとなるか?

著作権保護の分野において、権利者と海賊版サイトのいたちごっこは長年続いています。海賊版サイトを見つけ次第、デジタルミレニアム著作権法(DMCA)に基づく削除リクエストをGoogleなどの検索エンジンに送信する対応が一般的ですが、この方法では次々と新しいドメインに移行する海賊版サイトを完全に封じることはできません。

このような状況の中、2025年2月に世界知的所有権機関(WIPO)が開催した会議では、AI技術を活用した新しい著作権侵害対策が議論されました。特にポルトガルのNOSテクノロジーが提案した「AI搭載の著作権侵害対策ツールキット」は、今後の海賊版対策の方向性を変える可能性を秘めています。

AIツールによる自動著作権侵害対策の可能性

NOSテクノロジーの提案するツールキットは、AI、機械学習、ブロックチェーンなどの技術を活用し、リアルタイムで著作権侵害を検出・確認・対応するシステムです。これまでYouTubeなどのプラットフォームが独自のAI技術を活用して著作権侵害コンテンツを削除してきましたが、今回のツールはそれをさらに発展させ、ISP(インターネットサービスプロバイダ)レベルで海賊版コンテンツをブロックできるとされています。

この仕組みは、APIを介してISPに接続し、ブロッキングゲートウェイを自動検出して制御することで、違法コンテンツの拡散を阻止するというものです。これにより、人手を介さずに大量の著作権侵害コンテンツを自動で遮断できるため、従来のDMCA削除リクエストよりもはるかに効率的な対策が可能になります。

AIによる著作権保護の課題

一方で、この技術の導入にはいくつかの課題もあります。

  • 誤検出のリスク

AIによる自動検出がどの程度正確であるかは、今後の技術開発にかかっています。例えば、合法的に使用されているコンテンツが誤ってブロックされるケースが発生すれば、ユーザーの表現の自由や正当なビジネスにも影響を与える可能性があります。

  • ISPとの協力体制

ISPレベルでのブロックを行うには、各国のISPがこのシステムを採用する必要があります。しかし、各国の法制度やビジネス環境が異なるため、一律に適用するのは難しいでしょう。

  • 技術の透明性

NOSテクノロジーのツールはその詳細が明らかにされていない部分も多く、「どのような基準でブロックを行うのか」「どのように誤検出を防ぐのか」などの点が今後の議論の焦点となるでしょう。

今後の展望

著作権侵害対策は、単に違法コンテンツを削除するだけでなく、著作物の適正な流通を確保し、クリエイターの権利を守ることが目的です。その意味で、AI技術の導入は大きな前進と言えます。しかし、技術の透明性や誤検出のリスクといった課題を解決しつつ、権利者と一般ユーザーのバランスを取ることが求められます。

WIPOの会議では、AIを活用した著作権保護の将来性が示されましたが、それが実際にどのような形で実装され、どれだけの効果を発揮するかは今後の展開次第です。著作権保護の新時代に向けて、技術革新と慎重な制度設計の両立が必要となるでしょう。