2024年、トヨタ自動車が米国で取得した特許件数は2,428件。これは自動車メーカーの中では11年連続のトップであり、全産業でもトップ10に入る数字です。数だけでなく、その中身にも注目すべき価値があります。
モビリティカンパニーとしての進化
トヨタは「自動車メーカー」から「モビリティカンパニー」へと変貌を遂げようとしています。その方向性は、車両そのものの製造だけでなく、移動に関わるあらゆる技術──たとえば電動化、自動運転、エネルギー管理、通信インフラ──に視野を広げるというものです。今回の特許群もそれを裏付ける証拠のひとつといえるでしょう。
特許で見る未来のトヨタ
たとえば、自動運転に不可欠な「LIDAR(ライダー)」では、視認性の低い黒色の物体も認識可能にする独自の黒色顔料を開発。この素材技術は、衣料品やバッグにも応用される汎用性を持ちます。これは“自動車”というカテゴリを超えた知財の広がりを示しています。
また、EVの電力管理に関する特許──利用者が最適な時間・場所・量で充放電を行うための技術──は、再生可能エネルギーとの親和性も高く、スマートグリッドの一翼を担うポテンシャルを秘めています。
さらに、車車間通信(V2V)や、車と周囲のインフラやモノが連携するV2X技術は、将来の自動運転社会の“協調型”インフラの基盤となるでしょう。
北米での知財戦略と人材ネットワーク
トヨタがこれだけ米国での知財取得に力を入れる背景には、北米市場の重要性だけでなく、R&D拠点との連携があります。ミシガン州の研究拠点を中心に、トヨタコネクティッドやウーブン・バイ・トヨタなど日本側のグループ企業とも連携し、グローバルな知的財産のエコシステムを構築しています。
これは単なる「現地での開発体制」ではなく、グローバルに開発・知財戦略を連動させる設計思想の現れとも言えるでしょう。
結びに
トヨタが「特許」という形で蓄積する技術群は、単に他社を牽制する手段ではありません。そこには、次世代の移動社会をどう設計していくか、というビジョンと哲学が凝縮されています。モビリティカンパニーへの進化は、製品の形を変えるだけではなく、社会のインフラを変えていくものなのです。