2025年5月18日、中国衛星ナビゲーション測位協会（GLAC）は「2025中国衛星ナビゲーション・測位サービス産業発展白書」を発表し、北斗システムを中核とした中国の測位産業が2024年に前年比7.39%の成長を記録したことを明らかにしました。生産総額は5758億元（約12兆円）に達し、その中でもチップや端末、アルゴリズムなどの中核分野は3兆円超という規模にまで拡大しています。
この成長は単なる国内産業の拡大にとどまりません。特許出願件数も累計で12万9000件を突破し、世界最多を維持しています。つまり、北斗を中心とした中国の衛星ナビゲーション産業は、経済・技術・知財の三位一体でグローバル競争力を増しているのです。
北斗の成長＝GPS依存からの脱却
中国にとって北斗は、アメリカのGPSへの依存を減らす「戦略的インフラ」。その存在意義は防衛や自動運転、物流、スマート農業にまで及び、すでにアジア諸国やアフリカ、中南米にも輸出が進んでいます。生産額の拡大は、それらの分野での商業応用が実際に軌道に乗ってきた証拠とも言えるでしょう。
特許数は「技術的主導権」の指標
特許出願の増加は、単なる研究開発の活発さだけでなく、国際市場における規格争いにおける優位性も意味します。中国は北斗をグローバルスタンダード化するため、国際特許を積極的に取得し、第三国市場における導入障壁を低減させようとしているのです。
日本・欧米はどう対応すべきか
北斗の台頭は、既存のGNSS（全球測位衛星システム）勢力図の再構成を意味します。日本の準天頂衛星「みちびき」、欧州の「ガリレオ」、ロシアの「GLONASS」といったシステムとの相互運用性や共存戦略を再検討する必要があるでしょう。
特に自動運転やスマートシティといった将来産業では、どの衛星システムを基盤とするかが市場競争力を左右します。民間企業にとっても、北斗との技術的互換性をどう確保するかが今後の課題となるでしょう。
北斗の進撃は“宇宙経済”の前哨戦
中国の北斗産業は、単なる測位技術の枠を超え、国家主導で進む宇宙インフラ戦略の中核へと成長しています。これは、経済安全保障や技術標準を巡る新たな「静かな戦争」とも言えるでしょう。
私たちに求められるのは、中国の動向をただ見るのではなく、自国の位置情報技術をどう活用し、どこで協調し、どこで競争するのかを見極めることです。