バンコールのユニスワップ特許訴訟が示すDeFi業界の転換点

2025年5月20日、分散型金融(DeFi)の草分け的存在であるバンコール(Bancor)が、DeFi最大手のユニスワップ(Uniswap)を特許侵害で提訴したというニュースが業界に波紋を広げています。訴訟の中心にあるのは、「定数積型AMM(constant product AMM)」と呼ばれるアルゴリズムの特許。これは、現代のDeFiの基盤を成す技術のひとつです。

技術の独自性と訴訟の根拠

バンコールは、2016年にこのアルゴリズムを設計し、2017年1月に特許を取得。ユニスワップは2018年に同様の構造を用いたプロトコルを発表し、その後爆発的な成長を遂げました。バンコールは、ユニスワップがこの技術を無断で使用し、商業的成功を収めている点を問題視しています。

特許とオープンソースのジレンマ

ここで浮かび上がるのが、「オープンソース精神と知的財産の両立」という根本的な課題です。DeFiは一般に、オープンかつ透明性の高い技術共有を前提としていますが、その裏で特許の取得と行使が行われていることは、業界にとって非常にセンシティブな問題です。

特許による独占がイノベーションの障害になる一方で、正当な技術者の権利を保護しなければ、持続可能な開発は成り立ちません。今回の訴訟は、技術のオープン性と商業的保護のバランスを改めて問い直すものと言えるでしょう。

市場シェアの乖離と訴訟の動機

バンコールは、現在DeFiの市場でユニスワップに大きく後れを取っており、その取引高は約1万分の1以下という現実があります。こうした中での訴訟提起には、失われた市場優位性の回復という側面も否定できません。

訴訟によって直接的な損害賠償を求めると同時に、ユニスワップの成長を牽制する意図があると見る向きもあるでしょう。ただし、これが逆に「特許トロール的」な印象を与えるリスクもあります。

今後の影響とDeFiコミュニティの行方

本件は、DeFi業界における知財リスクの可視化という意味で非常に重要です。もしバンコールの主張が法的に認められた場合、他のプロジェクトも同様のリスクに晒される可能性が出てきます。

一方で、特許を無効とするユニスワップ側の反論が通れば、「DeFi技術は公共財である」とする価値観が再確認されることになるでしょう。

この訴訟はDeFiの未来を形作る試金石となるか?

今回の訴訟は、単なる技術の所有権争いにとどまらず、オープンイノベーションの在り方と、商業的成功の正当性を巡る根源的な議論を呼び起こします。

DeFiは「分散」という理念の下で築かれてきましたが、それを支える技術や開発者たちの権利がないがしろにされては本末転倒です。この訴訟の行方は、業界全体の成熟度と倫理観を測るリトマス試験紙になるかもしれません。