「217億円の逆転判決」— 東レ vs. ジェネリック企業、知財訴訟が突きつける製薬業界の緊張関係

5月27日、知的財産高等裁判所(知財高裁)は、かゆみ止め薬の特許をめぐる訴訟で東レの逆転勝訴を言い渡し、沢井製薬と扶桑薬品に対して総額約217億円の支払いを命じました。1審では東レの請求が棄却されていたため、今回の判決は業界に衝撃を与えています。本記事では、この訴訟の背景と影響を考察します。

背景:特許とジェネリック薬のせめぎ合い

医薬品の開発には膨大なコストと年月がかかります。先発品メーカーはその投資を特許で保護し、一定期間の独占的販売を通じて回収を図ります。一方、特許期間満了後に登場するジェネリック薬は、低価格で医療費を抑制する存在として社会的に重要視されています。

しかし、今回のように「特許がまだ有効だ」と主張する先発メーカーと、「特許は無効または非侵害だ」とするジェネリック企業の間で争いが起きることも珍しくありません。

東レの逆転勝訴:何が評価されたのか

1審では東レの請求が棄却されていたものの、知財高裁は東レの主張を支持しました。報道によれば、沢井製薬および扶桑薬品の製品が東レの保有する特許に抵触すると認定されたとのことです。

このような「侵害認定」は、特許の技術的範囲をどう解釈するかに大きく依存します。特に医薬品における製剤特許や用途特許は、抽象的な表現や微妙な成分差で争われるため、判断が難解になりがちです。

損害額217億円の重み

今回の損害額は、沢井製薬に対して約142億円、扶桑薬品に対して約75億円という非常に高額なものです。医薬品の販売利益に匹敵する規模の賠償は、ジェネリック業界にとって深刻なリスク要因となります。

この判決は、特許リスクに対する事前審査の重要性を再認識させると同時に、「勝てると踏んで製造・販売を開始しても、後で覆る可能性がある」という現実を突きつけています。

今後の行方:上告と業界への波及効果

両社とも上告の意向を示しており、最終的な結論は最高裁に委ねられる見込みです。しかし、この時点でもうすでに、ジェネリック企業にとって「特許侵害リスク」の再評価が求められる空気は強まっています。

さらに、この判決は他の訴訟にも影響を及ぼす可能性があります。先発メーカーによる知財権行使が活発化すれば、ジェネリック参入のハードルが上がり、医薬品価格の高止まりにもつながりかねません。

知財と公共性のバランスをどう取るか

医薬品業界において、特許権の尊重と医療アクセスの確保は、しばしば対立する命題です。東レの勝訴は特許制度の機能を強く印象づけるものでありつつも、その背後で揺れる「国民の利益」と「企業の権利」のバランスをどうとるべきか、改めて問われる機会となったと言えるでしょう。