伝統金融と暗号資産の融合が加速する
2025年6月、JPモルガン・チェースが新たな預金トークン「JPMD」の試験運用を開始したというニュースが、暗号資産業界と伝統的金融業界の両者に衝撃を与えました。このJPMDは、イーサリアムのレイヤー2ネットワーク「Base」上で動作し、実際にコインベースを通じて流通が開始される予定です。
単なる試験運用とはいえ、これは世界最大級の銀行がブロックチェーンとトークン技術を本格導入する第一歩。特に注目すべきは、「預金トークン(Deposit Token)」という形態です。これは単なるステーブルコインとは異なる次元の金融革新を示唆しています。
預金トークンとステーブルコインの違い:制度と信頼性の再定義
預金トークンは、顧客の銀行預金を直接トークン化することで発行され、従来の銀行インフラの中で管理・運用されます。これに対して、USDCやUSDTといったステーブルコインは、現金や国債などによって裏付けられ、銀行とは独立した発行体が運営しています。
この違いは、機関投資家にとって決定的です。JPモルガンのマレラ氏が語るように、預金トークンは「部分準備方式」に対応可能で、規制の範囲内で利息支払いの可能性もあるなど、既存の銀行業務とより親和性が高い。すなわち、「信頼の担保」と「収益性の両立」が見込まれるのです。
JPモルガンとBase:なぜレイヤー2なのか?
注目すべきは、JPMDがイーサリアムのレイヤー2である「Base」上で運用される点です。Baseは2023年にコインベースが立ち上げたネットワークであり、現在では最大のL2シェアを誇ります。JPモルガンがこのネットワークを選んだ背景には、スケーラビリティ、低コスト、既存金融機関との接続性といった技術的な優位性があると考えられます。
これは、単なる金融商品の実験ではなく、「金融インフラそのもののリプレイス」を見据えた戦略的選択に他なりません。
業界へのインパクトと今後の展望
JPMDの登場は、次の3つの点で金融業界に波紋を広げる可能性があります。
- 銀行系ステーブルコインへの反発と競争
銀行ロビー団体が危機感を抱いているとされるように、JPモルガンのような巨大金融機関が預金トークンを介してDeFiやトークンエコノミーに参入することは、非銀行系ステーブルコインにとって強力な競合となるでしょう。
- 金融規制の再編成
預金トークンは法的な銀行預金の範疇にあるため、従来の仮想通貨規制とは異なる枠組みでの取り扱いが必要になります。これは、今後のデジタル通貨政策にも影響を与える可能性があります。
- 利回り付きトークンの普及
JPMDが利息を付与するようになれば、投資家は安全性とリターンを兼ね備えた新たな資産クラスとして注目するでしょう。この動きは、ステーブルコインの新しい形を定義する先駆けとなるかもしれません。
伝統金融の再構築か、それとも包摂か
今回のJPモルガンの動きは、単なる「暗号資産への進出」ではなく、伝統的金融システムの延長としてのブロックチェーンの採用を意味しています。銀行が発行するデジタルトークンが普及すれば、中央銀行デジタル通貨(CBDC)やDeFiとの競合・融合も加速するでしょう。
JPMDの試験運用が示すのは、ブロックチェーン技術がいよいよ「メインストリームの金融インフラ」になり得る時代の到来です。