JDI、知財売却で再起を図る 〜液晶の旗手は「身軽」になれるか〜

2024年7月30日、ジャパンディスプレイ(JDI)は、自社が保有するパネル技術関連の知的財産を親会社ファンド・いちごトラストへ売却したと発表しました。液晶や有機ELの中核技術を含む知財の一部が対象です。しかしJDIは、売却後もこれらの知財を“無償で使用可能”とする契約を結んでおり、製品開発や生産には支障がないとしています。本件は、JDI再建の重要な一手として注目されています。

JDIの苦境と再建の足取り

JDIは、2012年にソニー・東芝・日立の中小型液晶事業を統合して発足した「日の丸液晶連合」として大きな期待を集めました。しかし、スマートフォン市場の急変、有機ELシフトの波、そしてJOLEDとの重複・競合などにより、収益は伸び悩み、慢性的な赤字体質に陥ります。

2020年代に入り、車載ディスプレイなどへの転換や、独自有機EL技術「イーリープ(eLEAP)」の開発で活路を模索するも、財務基盤の脆弱さは解消されていませんでした。

知財売却の狙いと条件

今回JDIが売却したのは、液晶および有機ELに関する特許や技術群の一部で、破綻したJOLEDから引き継いだ技術も含まれています。これにより、「使いながら売る」という異例のスキームが実現。JDIはキャッシュを得る一方で、自社の製品・サービスに支障をきたさずに済みます。

これは、いちごトラストが単なる資産買収ファンドではなく、「JDI再建を支えるオーナー企業」として動いていることの表れでしょう。あわせて、主力拠点である茂原工場の不動産もいちごに売却される予定です。

なぜ今「知財の現金化」か

現在のディスプレイ業界は、韓国・中国勢の台頭と価格競争が激化する中、単なる製造力では生き残れないフェーズに突入しています。一方でJDIは、技術力に一定の評価があるものの、それをマネタイズする仕組みが不十分でした。

このような状況で、知財を“金融資産”として活用し、運転資金や新規事業に再投資するという判断は、極めて戦略的です。特許や技術を“守る”だけでなく、“動かして価値を生む”という方針への転換ともいえます。

今後の展望:JDIは何を捨て、何を残すか

知財の売却は、JDIにとって「身軽になる」ための一手です。しかし、その“身軽さ”が「中核技術の空洞化」や「研究開発力の低下」につながらないかという懸念もあります。

一方で、JDIが今後もイーリープ技術などを活用し、新たな市場(たとえば車載向けや医療用ディスプレイ)に注力することで、高付加価値な技術ベンチャーとして再構築される可能性もあります。

今回の知財売却は、単なる延命策ではなく、“再定義”に向けた布石とも言えるのではないでしょうか。

「技術を活かすのは、自らだけではない」――。
JDIの知財戦略が、日本の製造業における知的財産のあり方を問い直すきっかけになるかもしれません。