トランプ大統領の「医薬品100%関税」表明が意味するもの

突如の発表とその背景

9月25日、トランプ米大統領は輸入医薬品に対し100%の追加関税を課すとSNSで発表しました。対象は「ブランド薬や特許保護中の医薬品」に限定され、ジェネリック医薬品は除外される見通しです。発効日は10月1日と目前に迫っており、製薬業界や医療関係者に衝撃が広がっています。
今回の措置は、鉄鋼・アルミ、自動車部品、銅製品に続く「分野別関税」の一環であり、米商務省が通商拡大法232条に基づき4月から調査していた結果を踏まえたものとされます。

「工場建設中なら免除」という誘因策

注目すべきは、米国内で製薬工場を「建設中」であれば関税免除とする条件です。着工段階でも適用されるため、対米投資を即決させるインセンティブが仕込まれているといえます。実際、英GSKが5年で300億ドル、アストラゼネカが500億ドル規模の投資計画を発表するなど、欧州勢はすでに米国進出を加速しています。トランプ氏の発表は、こうした動きを一層後押しする形です。

日本・EUとの「15%上限」取り決め

一方で、日本とEUは米国との間で「医薬品関税を15%に抑える」という合意を取り付けています。そのため、表面的には100%関税の影響を免れるかに見えます。しかし、この「例外措置」が実際にどう運用されるかは依然として不透明です。トランプ政権が交渉カードとして関税を使い分ける余地は残されているでしょう。

懸念される影響と波紋

米国病院協会(AHA)は「医薬品の入手難」を懸念しています。ブランド薬はがん治療薬や免疫抑制剤など生命線に関わるケースが多く、価格上昇は患者や医療制度に直結します。また、製薬企業は急ぎ対米投資を検討せざるを得ず、グローバルなサプライチェーンの再編が加速する可能性があります。
日本企業にとっては、現時点で直接的な打撃は少ないとみられる一方、長期的には「米国市場でのプレゼンスを保つための現地投資圧力」が高まるリスクがあります。

まとめ ― 関税政策が産業政策へ

今回の「100%関税」は、単なる貿易摩擦ではなく、米国内製造基盤を取り戻すための産業政策としての性格が強いと言えます。欧州大手の巨額投資が示す通り、製薬業界は事実上「米国に工場を持たなければ市場参入できない」状況に向かいつつあります。
医薬品という公共性の高い分野における「関税を通じた誘導」は、今後の国際経済の緊張をさらに高める要因となりそうです。