2024年のWIPO「世界知的財産指標」を読む― 中国の圧倒的首位と、世界の知財動向の変化

世界知的所有権機関(WIPO)が毎年発表する「世界知的財産指標(WIPI)」は、国際的な技術競争力や産業構造の潮流を把握するうえで非常に重要な資料です。2024年版では、特許・商標・意匠のすべての出願件数がいずれも高水準を維持し、とくに中国の存在感が際立っています。本記事では、主要なポイントとそこから読み取れるトレンドを考察します。

特許出願は過去最高を更新

2024年の世界の特許出願件数は370万件と過去最高を記録し、前年比4.9%増と堅調な伸びを示しました。とくに注目すべきは次の点です。

中国の圧倒的トップ

  • 中国:180万件(世界全体の約49%)
  • 米国:50万件
  • 日本:41万件
  • 韓国:29万件
  • ドイツ:13万件

中国は依然として世界の“特許大国”の地位を揺るぎないものにしています。件数の差は大きく、米国や日本との差はさらに広がっています。

技術分野別では「コンピューター技術」が最多

公開特許では「コンピューター技術」が13.2%で最多でした。以下、「電気機器」「計測技術」「デジタル通信」「医療技術」が続いており、いずれもデジタル技術・インフラ系が中心です。
これは、AI・IoT・クラウド・半導体などの成長分野がグローバルで知財活動を牽引していることを象徴しています。

商標は回復傾向だが、国ごとの差は大きい

商標出願は1520万件でわずか0.1%減と微減ながら、2年間の減速から回復しつつあります。

中国は圧倒的な730万件

世界の約半分の商標が中国で出願されており、ブランド保護の重要性が中国企業の間で一段と高まっていることを示しています。

米国・ロシア・インド・ブラジルが続く

米国のブランド力維持、インド・ブラジルの新興国市場の拡大が数字に反映されています。
商標は企業活動の裾野の広さを反映するため、これらの国では依然として企業活動が活発であることが分かります。

意匠も中国が世界トップ

意匠出願件数は160万件で前年比2.2%増。こちらも中国が首位でした。

  • 中国:90万件
  • ドイツ:7万件
  • 米国:6.6万件
  • イタリア:6.3万件
  • 韓国:6万件

上位5か国で世界全体の約4分の3を占めるという集中度の高さが特徴です。

中国が強い理由

意匠はプロダクトデザイン、UIデザイン、工業製品の外観などに関わる分野で、

  • スマート家電
  • スマホ・ウェアラブル
  • 家具・日用品

など「生活密着型産業」の活発さが背景にあります。中国はまさにこの領域で勢いがあり、数字にもその強さが表れています。

なぜ中国が圧倒的なのか?

ここまで3分野すべてで中国が世界1位でした。この背景にはいくつかの要因があります。

国内市場の巨大さ

14億人規模の市場は、企業にとって知財による差別化の重要性を高めます。

政府の強力な知財支援

知財権保護の強化や補助金制度など、政策面での後押しが長年続いています。

スタートアップと製造業の強さ

AI・IT企業から電子機器メーカーまで、出願意欲の強い産業が多層的に存在しています。

国際競争力の向上を意識

国際化の進展に伴い、企業が海外展開のために商標・意匠を積極的に押さえる傾向があります。

日本はどう見るべきか

日本は依然として世界3位の特許出願国ですが、件数では中国や米国との差が大きく、縮小傾向が続いています。
ただし、日本企業は1件あたりの質が高いと言われており、「量より質」で戦う伝統的なスタイルを維持しているとも言えます。

とはいえ、次のポイントは見逃せません。

  • モビリティ産業の構造転換(EV化、ソフトウェア化)
  • 半導体依存と製造基盤の維持
  • 医療技術・バイオ分野の強化

これらの領域で積極的な知財戦略を取れるかどうかが、今後の競争力を左右すると感じます。

知財は国力と産業構造を映す“鏡”

今年のWIPO報告書からは、

  • 中国の知財活動が依然として世界をリードしていること
  • コンピューター技術・電気技術などデジタル系が世界的な主流であること
  • 商標・意匠では企業活動の広がりが鮮明に見えること

が読み取れます。

知財は単なる制度ではなく、国の産業競争力を示す重要な指標です。
2025年以降のデータではAI、半導体、バイオの領域がさらに伸びると予想されるため、今後も各国の知財戦略から目が離せません。