韓国のLG電子が、アマゾン・コムとWi-Fi技術に関する標準必須特許(Standard Essential Patent:SEP)のライセンス契約を締結したというニュースが報じられました。
一見すると単なる特許ライセンスの話ですが、AIとIoTが生活に深く入り込む時代において、この動きは非常に大きな意味を持つと感じます。
LG電子は“製造業”から“知財収益企業”へシフトしている
LG電子は2022年に定款へ「特許など知的財産権のライセンス業」を追加し、明確に知財の収益化を進めてきました。2025年上半期時点では9万7,880件の登録特許を保有し、その約半数が標準特許という規模の大きさが特徴的です。
標準必須特許(SEP)は、通信規格など世界標準を実装するために不可欠な特許で、市場全体への影響が大きく、ライセンス料も安定収益になりやすい領域です。
これほど大量のSEPを保有している企業が本気で「権利行使による収益化」を進めれば、事業モデルの軸が大きく変わっていく可能性があります。
アマゾンとの契約が象徴する「AI×IoT」時代の前哨戦
今回のライセンス契約は、アマゾンのAIスピーカーなどのデバイスでLG電子のWi-Fi技術を使用できるようにするものです。
Wi-Fi技術はIoT機器に必要不可欠であり、AIスピーカー、スマート家電、ホームセキュリティなど、あらゆる分野に広く関わります。
つまり今回の契約は、「AI×IoT時代のインフラを支配する企業が誰になるのか」という競争の一端を示すものだといえます。
アマゾンのように膨大なデバイスを世界に展開する企業がLG電子のSEPを採用したことは、LGの交渉力と技術的ポジションの強さを改めて裏付けています。
SEPをめぐる国際競争はさらに激化する
標準必須特許は、その性質上、
- 特許保有者はFRAND条件(公正・合理的・非差別的)でのライセンス提供が求められる
- 他社のデバイスは標準に準拠するため、必然的に特許を使う
という特徴があります。
世界では、Wi-Fiや通信技術に関するSEPの紛争が頻発しています。
特に中国メーカー、米国ビッグテック、韓国企業、欧州企業がそれぞれ巨大なポートフォリオを持ち、覇権争いをしています。
LG電子が今回の契約を皮切りに、複数のグローバル企業と交渉を進めているという点は、「製品競争」ではなく「特許競争」で主導権を握る動きとして注目されます。
AI分野への布石は「データ中心」の知財戦略へ
ニュースでは、LG電子が今後AIやコンピューティング分野でも特許競争力を強化する方針であることも示されています。
AI時代の特許は、大きく以下の2つに分かれる傾向があります。
- ハードウェア・通信基盤(Wi-Fi、半導体、ネットワーク)系のSEP
- AIアルゴリズム・モデル構築・学習データ処理に関する知財
LGは(1)で既に強い地位を築きつつあり、今後は(2)へ収益モデルを広げる可能性があります。
AIの成長スピードを考えると、基盤技術の知財を押さえておくことは、今後10年の競争力に直結します。
今回のニュースが示す未来
今回のライセンス契約は、単なる特許合意にとどまらず、次の流れを示唆しているように思います。
- 製造企業が知財収益化を重視する時代へ移行
- SEPはIoT・AIインフラの基盤として重要性が増す
- 巨大プラットフォーマーも他社の技術に依存せざるを得ない構造が強まる
- 標準化 × 知財戦略が企業競争力を左右する局面が加速
技術そのものだけでなく、「誰がどの標準を押さえるのか」という戦略が、企業価値を左右する時代にますます突入していると感じます。
