中国を国賓訪問中の李在明大統領が、習近平国家主席に続き、全国人民代表大会の趙楽際常務委員長、李強首相と相次いで面会しました。中国の序列上位者すべてと会談を行い、人民日報が1面トップで大きく報じたことは、中国側が韓国との関係を重視しているという強いシグナルといえます。米中競争が激化し、国際情勢が不安定さを増す中で行われた今回の訪問は、形式面だけを見れば「破格の厚遇」でした。
韓国政府が今回の訪問を「完全な正常化」への最初の関門と位置づけたことにも、一定の根拠があります。THAAD配備を契機とする中国の報復措置や、前政権下での対中関係悪化を経て、韓中関係は長らく冷却状態にありました。今回の首脳会談により、少なくとも関係修復に向けた政治的モメンタムが回復したことは否定できません。李大統領が「2026年を韓中関係全面修復の元年にする重要な契機」と述べたのは、その象徴的な表現でしょう。
一方で、国賓訪問でありながら共同声明が発表されなかった点は、今回の会談の限界を端的に示しています。両国が発表した文書の内容や力点にもズレがあり、特に安全保障や地域秩序といった敏感なテーマでは、立場の隔たりがそのまま残りました。民生や経済分野では一定の合意が得られたものの、核心的な政治・安保問題では「踏み込まなかった」という印象が拭えません。
とりわけ象徴的なのが、朝鮮半島の非核化をめぐる扱いです。韓国側は、北朝鮮との対話再開や平和構築に向けた中国の「建設的役割」を確認したと説明しましたが、中国側の発表文には非核化や朝鮮半島問題への言及がほとんど見られませんでした。これは、米中覇権競争の中で北朝鮮の戦略的価値が高まっている現実を反映したものと考えられます。韓中が「平和構築への協力」という抽象的なコンセンサスには至ったものの、具体的成果を期待するのは時期尚早でしょう。
中国側の最大の関心が台湾問題にあったことも、今回の会談の性格を浮き彫りにしています。「一つの中国」原則を強調し、日本や米国との関係にも言及する中国の姿勢は、韓国に対する戦略的選択の圧力とも受け取れます。歴史認識を持ち出しつつ、「正しい戦略的選択」を促す発言は、韓国の外交的自律性が試されている現状を示しています。
韓国国内で関心の高い限韓令の問題についても、進展は限定的でした。文化交流を段階的に拡大するという原則的合意は得られたものの、K-POP公演の再開やドラマ・映画の流通といった具体的成果には至っていません。囲碁やサッカーから交流を再開するという合意は象徴的ではありますが、実質的な解除にはなお時間を要するでしょう。
西海をめぐる構造物問題も同様です。「平和な海にする」という認識共有は確認されたものの、具体策は先送りされ、次官級協議に委ねられました。状況を悪化させないための管理フェーズに入ったと見るのが現実的です。
その中で、比較的明確な成果を挙げたのが民生・経済分野でした。知的財産権保護やAI・ビッグデータ分野での協力を含む14件のMOU締結、商務相会議の定例化は、今後の実務的関係強化につながる可能性があります。政治・安保での不確実性が高いからこそ、経済協力を関係安定の土台とする狙いがうかがえます。
今回の国賓訪中は、韓中関係が「未来へ向かう礎石とモメンタム」を得たという評価と同時に、限界と課題も明確にしました。全面回復という言葉の重みを現実の成果に変えていくためには、漸進的な対応と冷静な戦略判断が不可欠です。李大統領が強調した「戦略的自律性」が、今後どこまで具体的な外交行動として示されるのか。今回の訪問は、その試金石の第一段階だったといえるでしょう。
