韓国の李在明(イ・ジェミョン)大統領と日本の高市早苗首相が奈良市で会談し、「今年を韓日関係の新たな60年の出発点にする」との認識を共有しました。首脳会談はこれで5回目、高市首相との会談としては2回目となり、両国間で首脳の相互往来、いわゆるシャトル外交が定着段階に入ったことを強く印象づけるものとなりました。
今回の会談の特徴は、象徴的なメッセージにとどまらず、国民生活や経済に直結する具体的な成果が示された点にあります。AIや知的財産保護分野での協力に関する実務協議の継続確認、出入国手続きの簡素化、相手国への修学旅行の奨励、さらには国境を越える犯罪への共同対応など、いずれも両国民が「関係改善」を実感しやすい分野です。とりわけ、韓国警察庁主導の国際協議体に日本が参加するという合意は、安全保障や治安協力を実務レベルで深化させる一歩として評価できます。
また、歴史問題においても注目すべき動きがありました。1942年に発生した長生炭鉱の水没事故を巡り、朝鮮半島出身者を含む犠牲者の遺骨について、日韓が共同で発掘・鑑定を進めることで一致した点です。両国が正面衝突しやすい論点を避けるのではなく、「両国民が被害を受けた事案」という共通基盤に立ち、解決志向のカードとして扱ったことは、これまでの対立構図とは一線を画しています。李大統領が「小さいが意味のある進展」と評価した背景には、この現実的なアプローチへの手応えがあるのでしょう。
一方で、慰安婦問題や徴用を巡る謝罪要求、独島領有権問題といった、両国間で最も感情的対立を生みやすいテーマは、本格的には取り上げられなかったとみられます。福島県などからの水産物輸入規制についても、共同記者発表では言及がありませんでした。これは、関係改善の勢いを損なう可能性のある論点をあえて先送りし、まずは信頼醸成と実利的協力を優先する判断だったと考えられます。
今回の首脳会談は、「すべてを一度に解決する」ことを目指したものではありません。しかし、対立点を無理に棚上げするのではなく、合意可能な分野で成果を積み上げることで、将来の難題に取り組む足場を築こうとする姿勢は明確です。「新たな60年」という言葉が単なるスローガンに終わるか、それとも実質を伴った転換点となるかは、今後、この積み上げがどこまで持続し、拡張されるかにかかっています。
関係改善の真価は、華々しい宣言ではなく、地味で継続的な協力の中で問われます。今回の会談は、その第一歩として、現実的で評価に値する一歩だったと言えるでしょう。
