特許の壁を越える中国電池スタートアップ――ウェアラブル時代に浮上する「金属ケース電池」という主戦場

中国のボタン型電池スタートアップである国研新能(Sritpower)が、シリーズBで約5000万元(約10億円)を調達したというニュースは、単なる資金調達の話題にとどまりません。これは、ウェアラブルデバイスの進化と、それを支える電池技術の地殻変動を象徴する出来事だといえます。

まず注目すべきは、同社が挑んだ市場の難易度です。高性能ボタン型リチウムイオン電池の分野は、長年にわたりVARTAが特許網を構築してきました。このため、中国メーカーが正面から参入することは極めて困難でした。張豊学氏の発言にもあるように、AppleのAirPodsのヒットによって需要は爆発的に増えた一方、その果実を享受できるプレイヤーは限られていたのです。

国研新能が選んだ戦略は、既存特許の延長線ではなく、「全く新しい技術アプローチ」を構築することでした。材料から製造までを国内で完結させ、特許を回避する技術体系をゼロから作り上げた点は、技術力だけでなく、知財戦略としても非常に示唆的です。単に安価に作るのではなく、「参入障壁そのものを設計し直す」姿勢が、今回の評価につながったと考えられます。

次に重要なのが、金属ケース電池という技術選択です。現在主流のパウチ型電池は柔軟性に優れる一方、膨張や安全性、形状自由度の面で限界があります。AI搭載が進むスマートウォッチやワイヤレスイヤホン、ARグラスのようなデバイスでは、内部スペースは極端に限られ、しかも安全性への要求は年々厳しくなっています。この文脈において、金属ケース電池が持つエネルギー密度、安全性、省スペース性の優位性は、単なる改良ではなく「世代交代」の可能性を示しています。

さらに、同社が全自動生産を実現している点も見逃せません。ラミネート技術や垂直積層構造、レーザー溶接、微細孔注液といった複数のコア技術を統合し、良品率と一貫性を高めていることは、研究開発型スタートアップから量産型企業へと脱皮しつつある証拠です。電池産業では、技術的に優れていても量産で品質が安定しなければ市場を制することはできません。その意味で、今回の資金調達は「研究費」よりも「生産能力拡張」に向けられる点が極めて現実的です。

実際、同社はすでにXiaomiの家電ブランドである米家(MIJIA)のスマートグラス向けに電池を供給しており、海外顧客とVRグラス用の超薄型電池の共同開発も進めています。これは、技術が「研究室レベル」ではなく、「顧客の製品」に組み込まれる段階に入っていることを意味します。

張氏が語るように、中国の電池業界は競争が極めて激しく、汎用品では生き残れません。その中で、金属ケース電池というニッチだが成長性の高い領域に集中し、特許と製造技術の両面で差別化を図る戦略は理にかなっています。ウェアラブル市場が拡大し続ける限り、「小型・高性能・高安全性」という要件はますます重要になります。

今回のニュースは、中国スタートアップの資金調達成功例というよりも、ウェアラブル時代における電池技術の主戦場がどこに移りつつあるのかを示すシグナルだと捉えるべきでしょう。金属ケース電池がパウチ型に取って代わる流れが本格化するのか、その先頭に国研新能が立てるのか。今後の動向は、デバイス産業全体に影響を与える可能性があります。