NECが2026年4月から提供を開始する知的財産業務向けAIサービスは、単なる業務効率化ツールにとどまらず、企業における知財部門の役割そのものを再定義する可能性を秘めています。本稿では、このニュースが持つ意味を「業務変革」「競争優位」「日本企業の知財戦略」という観点から考察します。
知財業務のボトルネックに正面から切り込むAI
知財部門の業務は、先行技術調査、特許性判断、発明提案書作成など、高度な専門性と多大な工数を要する作業の集合体です。特にグローバル特許の検索・比較は、熟練者であっても時間を要する領域でした。
NECの新サービスでは、技術資料と簡単な指示を入力するだけで、日米欧約1250万件以上の特許データを対象に、類似特許抽出や特許性判断の支援、さらには発明提案書の作成までを自動化します。社内実証で最大94%の時間短縮を達成したという数字は、単なる改善ではなく「業務構造の転換」を示唆しています。
汎用AIではなく「知財特化AI」である意味
これまで生成AIは知財分野でも活用が模索されてきましたが、技術内容の深い理解や、特許制度特有の論理構造を正確に扱う点では限界がありました。NECが強調するのは、同社が日本有数の特許保有企業として長年蓄積してきた知財実務ノウハウと、独自AI技術の融合です。
これは「AIを導入した」のではなく、「知財業務そのものを理解したAIを設計した」という点に本質があります。知財部門の実務に根差したAIでなければ、特許性判断や発明の価値評価といった中核業務は任せられません。
知財部門を“守り”から“攻め”へ変える可視化機能
今回のサービスで注目すべきもう一つの要素が、保有技術と市場規模、特許件数を掛け合わせた定量評価と可視化です。いわゆる「レッドオーシャン」「ブルーオーシャン」をグラフで示す機能は、知財を単なる権利管理から、経営戦略に直結する情報資産へと引き上げます。
これにより知財部門は、「出願を処理する部門」ではなく、「どの技術領域に投資すべきかを示す戦略部門」へと進化します。技術戦略・事業戦略と知財戦略の接続が、より実務的かつスピーディーに行えるようになる点は、多くの企業にとって魅力的です。
月額100万円という価格が示すターゲット層
SaaSの価格が月額100万円からという設定は、明確に中堅〜大企業の知財部門を想定しています。精密機器、総合電機、素材、消費財メーカーとの実証が進んでいる点からも、「技術資産を多く持つが、知財人材が慢性的に不足している企業」が主要顧客像と考えられます。
これは裏を返せば、知財業務の高度化・効率化が、もはや一部の先進企業だけのテーマではなく、競争力維持のための必須条件になりつつあることを示しています。
日本企業の知財競争力を底上げする可能性
日本企業は技術力に比して、知財の戦略的活用が弱いと指摘されることが少なくありませんでした。NECのように、自社の知財資産とAI技術を組み合わせ、それを外部サービスとして提供する動きは、日本全体の知財競争力を底上げする契機になり得ます。
知財AIは、人を置き換える存在ではなく、人の判断を加速し、視野を広げる補助輪です。今回のNECの取り組みは、その補助輪を「実務で使えるレベル」にまで引き上げた点で、ひとつの到達点を示していると言えるでしょう。
おわりに
NECの知財AIサービスは、効率化という分かりやすい成果の裏で、知財部門の価値を「作業」から「戦略」へと転換する可能性を示しています。今後、この流れが他社にも波及することで、日本企業の知財活用の在り方そのものが変わっていくのか、注目していきたいところです。
