先発とジェネリックの垣根を越える協業が示す、日本の医薬品供給の新しい形

東和薬品と大塚製薬が、医薬品製造における戦略的協業に向けた基本合意を締結したというニュースは、日本の医薬品供給体制を考える上で、非常に示唆に富む動きだといえます。
先発医薬品企業とジェネリック医薬品企業が、従来の役割分担を超えて連携する点は、これまでの業界構造から一歩踏み出した取り組みです。

医薬品供給不安という「構造的課題」

近年、日本では医薬品の限定出荷や供給停止が常態化しつつあります。厚生労働省の公表によれば、2025年10月時点で医療用医薬品の約14%が限定出荷または供給停止となっており、現場では処方変更や代替薬対応が日常的に発生しています。
この背景には、品質不祥事への対応、原材料調達の不安定化、生産能力の制約など、複合的な要因が存在します。

特に、特許満了後に急速に後発品へ切り替わる市場構造の中で、先発企業が長年にわたり蓄積してきた製造技術や品質管理ノウハウが、十分に引き継がれないまま失われていくという問題は、以前から指摘されてきました。

今回の協業の本質は「役割の再設計」

今回の基本合意では、長期収載品や基礎的医薬品を中心に、東和薬品が承継を前提として製造を受託し、大塚製薬が保有するデータやライセンスをジェネリック開発に活用することが想定されています。
これは単なる製造委受託ではなく、「誰が、どのフェーズで、どの強みを発揮するのか」という役割の再設計と見ることができます。

先発企業は、研究開発や製造技術、品質設計に関する知見を有しています。一方、ジェネリック企業は、コスト効率の高い量産体制や安定供給のためのオペレーションに強みを持ちます。
両者が対立的な関係に立つのではなく、相互補完的な関係を構築することで、医薬品ライフサイクル全体を俯瞰した最適化が可能になります。

相互バックアップ体制がもたらす供給安定性

注目すべき点は、両社が相互にバックアップ生産を行える体制を構築しようとしていることです。
単一企業・単一拠点に依存した生産体制は、トラブル発生時の供給断絶リスクを内包しています。これに対し、製造拠点の相互補完や委受託を通じた生産の平準化は、サプライチェーン全体の耐性を高める有効な手段です。

物流・供給網の観点から見ても、企業の枠を越えた生産連携は、在庫の偏在や突発的な需要変動への対応力を高める効果が期待されます。
医薬品を「自社で完結させるもの」から「社会インフラとして支えるもの」へと位置づけ直す動きともいえるでしょう。

業界全体への波及効果に期待

生産準備は2026年3月以降、合意した品目から順次進められる予定とされています。短期的にすべての供給不安が解消されるわけではありませんが、この取り組みが成功すれば、他の先発・後発企業にも同様の協業モデルが広がる可能性があります。

医薬品の安定供給は、個々の企業努力だけで解決できる問題ではありません。今回の東和薬品と大塚製薬の協業は、競争と分業を前提としてきた業界構造を見直し、「連携による最適化」という新たな選択肢を提示した点で、大きな意味を持つと考えられます。

今後、この協業がどのような成果を上げ、日本の医薬品供給体制にどのような変化をもたらすのか、引き続き注目していきたいところです。