ARグラス市場で注目を集める企業同士の法廷闘争が始まりました。ARグラスを展開するXREALは、競合にあたるVITUREを特許侵害で提訴しました。訴状は米国テキサス州の連邦地方裁判所に提出され、XREALの子会社が、AR用光学システム技術に関する特許が侵害されたと主張しています。対象製品には、VITURE ProやLuma Pro、Luma Ultraなど複数のモデルが含まれます。
これに対しVITUREは、XREALの行動を「正当なイノベーション保護ではなく、不当な競争の武器」だと強く非難しました。中国では同様の特許がすでに拒絶されていること、当該特許は外観変更に近く価値が低いこと、容易に無効化できることなどを挙げ、侵害は成立しないと反論しています。両社の主張は、単なる技術論争を超え、市場支配をめぐる攻防の色合いを帯びています。
「販売禁止」をめぐる情報戦の実態
本件で特に興味深いのは、欧州市場をめぐる情報の錯綜です。XREALはVITURE製品が欧州9カ国で販売禁止になったと主張しましたが、VITUREはこれを全面否定しました。実際には、2025年11月にドイツの裁判所が予備的差止命令を出し、特定の製品、具体的には「Viture Pro」に限って、ドイツ国内での販売・輸入が制限されたにとどまっています。VITUREはこの仮処分に対しても控訴済みで、他の製品は欧州全域で販売が継続されています。
特許訴訟は、裁判所の判断そのもの以上に、「市場にどのような印象を与えるか」が競争力に直結します。販売禁止という言葉が独り歩きすれば、消費者や流通業者に与える影響は甚大です。VITUREが虚偽情報の流布として法的措置に踏み切った背景には、こうした情報戦への強い警戒があるといえます。
投資と提携が加速するARグラス市場
この訴訟が起きている背景には、ARグラス市場の急速な成長があります。XREALはXREAL ONEシリーズを皮切りに、2025年末から2026年初めにかけて新製品を相次いで投入しました。ASUSとの共同開発による「ROG XREAL R1」も発表され、2026年1月には1億ドルの資金調達を公表しています。調達資金はXRグラスのグローバル展開に充てるとされ、同社の成長志向は明確です。
市場全体を見れば、MetaがAIやスマートグラスに注力する一方、XREALはGoogleとARグラス「Project Aura」を開発中です。技術開発、資本、パートナーシップが複雑に絡み合うなかで、知的財産の扱いは競争優位を左右する重要な要素になっています。
かつて「訴えられる側」だったXREAL
興味深いのは、XREAL自身がかつて訴えられる側だったという事実です。2019年、Magic Leapは、当時nrealと呼ばれていたXREALと創業者CEOを提訴し、元従業員による機密情報の持ち出しを主張しました。しかし2020年、米国の裁判所はこの訴えをすべて棄却し、デバイス情報の盗用は認められませんでした。
この経験を踏まえると、今回XREALが「提訴する側」に回ったことは象徴的です。スタートアップが成長し、市場の主導権を争う段階に入ると、知財戦略は守りから攻めへと転じます。その転換点に、ARグラス市場はいま立っているのかもしれません。
法廷闘争は「成長痛」か、それとも分水嶺か
今回の訴訟は、単なる企業間の対立ではなく、ARグラスという新興市場が成熟段階に向かう過程で生じる「成長痛」とも捉えられます。特許は本来、技術革新を促すための制度ですが、同時に競争戦略の一部として使われる現実も否定できません。
今後、裁判所がどのような判断を示すかはもちろん重要です。しかしそれ以上に、両社が市場とユーザーに対してどのような姿勢を示すのかが問われています。技術革新と公正な競争、そのバランスをどう取るのか。XREAL対VITUREの争いは、ARグラス市場全体の行方を占う試金石になるといえそうです。
