スマートグラス市場が本格的な成長局面に入る中で、技術と知的財産(IP)を巡る緊張関係が、いよいよ表面化してきました。成長著しいこの分野で先頭を走るMeta Platforms Inc.と、眼鏡業界の巨人であるEssilorLuxottica SAが、特許侵害を理由に提訴されたというニュースは、その象徴的な事例といえます。
スマートグラス「中核技術」を巡る争い
今回の訴訟を起こしたのは、スマートアイウェアを手がけるSolos Technology Ltd.です。同社は、MetaおよびEssilorLuxottica、さらにその子会社であるOakleyが、「スマートアイウェア分野の中核技術」に関する複数の特許を故意に侵害したと主張しています。請求内容は数十億ドル規模の損害賠償に加え、Ray-Ban Meta製品の販売差し止めを求めるという、極めて強硬なものです。
特に注目されるのは、侵害対象が初代モデルである「Ray-Ban Meta Wayfarer Gen 1」にとどまらず、その後の製品群も「Gen 1プラットフォームの派生」として、継続的な侵害状態にあると指摘されている点です。これは、製品単体ではなく、プラットフォーム設計そのものが争点となっていることを意味します。
長年の接触と「知見の蓄積」という主張
Solos側の主張で印象的なのは、単なる技術的類似性だけでなく、被告側が同社の技術やロードマップに「長年にわたり直接触れてきた」とする点です。2015年にOakleyの従業員が試作技術の説明を受けたこと、2017年にEssilorLuxotticaの関係者と継続的な面会があったこと、さらに2021年前後にはMeta側も経営レベルで詳細な知見を蓄積していた、という時系列が示されています。
とりわけ、MIT Sloan Fellowによる研究成果と、その後のMeta入社という経歴が訴状で言及されている点は、技術移転や知的財産の境界線がどこにあるのかという難しい問題を投げかけています。研究成果と企業活動の連続性が、どこまで法的責任を伴うのかは、今後の審理で重要な論点となるでしょう。
市場での成功と技術の源泉は一致するのか
興味深いのは、Solos自身が消費者向け市場で必ずしも成功していない点です。製品レビューやユーザーコミュニティでは、評価が芳しくないという声も見られます。一方で、Ray-Ban Meta製品は好意的なフィードバックを集め、生産倍増が検討されるほどの需要を獲得しています。
この対比は、「技術を最初に持っていた企業」と「市場で勝った企業」が必ずしも一致しない現実を浮き彫りにします。優れたIPを保有していても、製品化、ブランド力、サプライチェーン、ユーザー体験の設計といった要素が揃わなければ、市場での成功には結びつきません。しかし同時に、その成功が他社の技術的基盤の上に成り立っているのであれば、後から大きな法的リスクとして跳ね返ってくる可能性があります。
スマートグラス時代におけるIP戦略の重要性
スマートグラス分野では、他社間でも訴訟が相次いでおり、技術成熟と市場拡大に伴ってIP紛争が増加する典型的なフェーズに入ったといえます。ハードウェア、ソフトウェア、AI、ユーザーインタフェースが密接に絡み合うこの領域では、「どこまでが差別化技術で、どこからが業界共通基盤なのか」を明確にすることが、これまで以上に重要になります。
今回の訴訟は、MetaやEssilorLuxotticaにとってのリスクであると同時に、スマートグラス市場全体に対する警鐘でもあります。技術革新のスピードが速いからこそ、知的財産の整理と透明性が不可欠であり、それを怠れば、成長の果実が訴訟という形で削がれる可能性があるのです。
スマートグラスが次世代の主要デバイスとなるかどうかを左右するのは、技術そのものだけでなく、その技術をいかに公正かつ戦略的に扱うかという、IPマネジメントの巧拙なのかもしれません。
