新品種米「なつほなみ」名称変更に見る、知的財産制度の“隙間”とブランド戦略の難しさ

新潟県が2026年の市場投入を予定していた新品種米「なつほなみ」について、名称を変更すると発表しました。同じ読み方の品種「ナツホナミ」が、すでに1978年に福井県で登録されていたことが判明したためです。種苗法に基づく指針では、同一名称の品種登録は認められておらず、今回の判断は制度上やむを得ない対応といえます。

しかし、このニュースは単なる「名称の付け直し」にとどまらず、日本の農業分野における知的財産管理やブランド戦略の課題を浮き彫りにしています。

まず注目すべきは、新潟県が事前確認を行っていた点です。県は名称発表前に、農林水産省の品種登録データ検索や、特許庁の商標検索を用いて、同一名称が存在しないことを確認していました。それにもかかわらず、過去に登録された品種との重複が後から判明した背景には、制度運用の歴史的な制約があります。農水省のデータベースでは、1978年以前、すなわち種苗法の運用開始前の情報が網羅されていなかったのです。

これは、データベースが「あるから安心」という思い込みの危うさを示しています。行政手続きや知的財産管理において、制度の開始時期や対象範囲を正確に理解していなければ、形式上の確認を尽くしてもリスクを完全には回避できないという現実があります。

一方で、今回のケースは被害が最小限に抑えられた例ともいえます。花角知事が述べたように、まだ作付け前であり、ロゴデザインや本格的な流通も始まっていなかったため、ブランドの再構築コストは比較的小さく済みそうです。むしろ、一般販売前の段階で問題が発覚したことは不幸中の幸いだったとも考えられます。

とはいえ、品種名は単なる識別記号ではありません。消費者にとっては品質やイメージを想起させる重要なブランド要素であり、生産者や流通業者にとっても長期的な価値を左右する資産です。今回、1745件の一般公募から選ばれた名称を改めて選び直すという判断は、ブランドづくりに対する県の姿勢を示す一方で、その難しさも物語っています。

今回の出来事から得られる教訓は明確です。新品種や新ブランドを世に出す際には、現行のデータベース検索だけでなく、制度の歴史や非デジタル領域の情報も含めた多層的な確認が必要であるということです。また、行政・研究機関側には、過去の知的資産をどのように可視化し、現代のデジタル基盤に統合していくかという課題も突き付けられています。

新たな名称とともに再出発することになる新潟県の新品種米が、今回の経験を糧に、より強固なブランドとして育っていくのか。その行方は、日本の農業ブランド戦略全体を考える上でも、ひとつの試金石となりそうです。