AI時代の知的財産秩序をどう築くか――WIPOと日本の役割を再考する――

2026年1月30日、知的財産戦略を担当する小野田紀美経済安全保障相が、内閣府で世界知的所有権機関(WIPO)の事務局長である世界知的所有権機関(WIPO)のダレン・タン氏と面会しました。この場で交わされた発言は、単なる表敬的なやり取りにとどまらず、AI時代における知的財産秩序の方向性を示唆するものだったと言えます。

AIと知的財産を巡る「次の論点」

小野田紀美氏が言及した「AIと知的財産を巡る課題」は、すでに各国で顕在化しています。生成AIによる学習データの扱い、創作物の帰属、AIが生み出した成果物の保護の在り方など、従来の知的財産制度では整理しきれない論点が急速に増えています。

こうした課題は、一国だけで解決できるものではありません。AI技術もデジタルコンテンツも国境を越えて流通する以上、国際的な共通ルールや最低限の合意形成が不可欠です。その意味で、「国際的な議論がこれからもっと進められていくことを期待する」という発言は、極めて現実的で戦略的なメッセージだと考えられます。

海賊版対策とWIPOの存在感

小野田氏はまた、コンテンツの海賊版といった知的財産被害を抑えるうえで、国際的なリーダーシップをとるのはWIPOだと強調しました。これは、日本が国内対策だけでなく、国際制度の設計や運用にも積極的に関与していく姿勢を示したものと受け取れます。

特に日本は、アニメ、マンガ、ゲーム、音楽など、デジタル化と国際流通が進んだコンテンツ分野で強みを持っています。その一方で、海賊版被害の影響を最も受けやすい立場にもあります。だからこそ、WIPOという多国間の枠組みを通じてルール形成を主導する意義は大きいと言えるでしょう。

「日本のコンテンツが世界を豊かにする」という評価

タン事務局長が述べた「日本のコンテンツが世界をより豊かにしている」という言葉は、単なる外交辞令ではありません。日本発のコンテンツが、文化的価値だけでなく、経済的・社会的価値を生み出していることへの国際的な認識を示しています。

この評価は同時に、日本に対する期待の裏返しでもあります。すなわち、日本が自国の利益だけでなく、国際社会全体にとって持続可能な知的財産制度の構築に貢献することが求められている、ということです。

日本に求められる次の一手

今回の面会から見えてくるのは、日本が「ルールの受け手」から「ルールの作り手」へと一段階進もうとしている姿です。AIと知的財産の交差点は、今後さらに複雑化します。その中で、日本がWIPOと連携しながら、実務と制度の両面で知見を提供していけるかどうかが重要になります。

AI時代の知的財産戦略は、単なる保護政策ではありません。イノベーションを促進しつつ、創作者と利用者のバランスをどう取るかという、社会全体の設計図に関わる問題です。今回のニュースは、その議論がいよいよ本格化することを示す一つの節目として、記憶されるべき出来事だと言えるでしょう。