2026年1月5日、ハノイにおいて、ベトナム科学技術省知的財産局が「知的財産活動に関する情報とコミュニケーション」をテーマとするセミナーを開催しました。本セミナーは、近年急速に進む行政改革とデジタルトランスフォーメーションの中で、同国の知的財産行政がどの段階に到達しているのかを確認する場であったといえます。
「特別な年」としての2025年
セミナーでは、知的財産庁副局長が、2025年は知的財産分野にとって「特別な年」であったと述べています。地方自治体の二層制化や地方分権の進展、行政改革やデジタル化といった複数の政策課題が同時並行で進められる中、知的財産局には従来以上の業務負荷がかかりました。しかし、その一方で、出願処理や権利設定といった中核業務において、明確な成果が示された点は注目に値します。
出願処理の改善が示す行政能力の底上げ
工業所有権分野では、出願件数の増加にもかかわらず、処理件数が前年比で大幅に伸び、保護証書の交付件数も大きく増加しました。これは単なる数値の改善にとどまらず、長年課題とされてきた滞留案件の削減と、権利付与システムの実効性向上を意味しています。
特許、意匠、商標のすべての分野でプラス成長が続いている点からは、企業や研究機関の側で、知的財産を戦略的に活用しようとする意識が確実に高まっていることがうかがえます。ベトナムにおけるイノベーション活動が、量的拡大から質的深化の段階に入りつつある兆候とも読み取れます。
法制度整備と国際整合性への強い意識
知的財産局は、日常的な出願処理だけでなく、制度設計の中核的役割も担っています。知的財産法の改正においては、地方分権やデジタル化、さらには国際統合といった要請との整合性が重視されました。2025年末に国会で可決された法改正、そして2026年初頭に公布された知的財産権執行強化の指令は、権利保護の実効性を一段引き上げる基盤となるものです。
これらの動きは、国内事情への対応にとどまらず、国際的な知財ルールとの整合を強く意識したものであり、ベトナムが国際的な投資・技術移転の受け皿としての信頼性を高めようとしている姿勢を示しています。
デジタル化と地方分権の実装段階へ
行政手続きの100%オンライン化や、高いオンライン申請率、電子署名による結果通知などは、制度としての「整備」を超え、実務として「使われている」段階に入ったことを意味します。また、行政手続きの一部を地方レベルに分散し、実際に数千件規模の処理が地方で行われている点は、地方分権が形式的なものではなく、実装段階にあることを示しています。
これは、首都集中型の知財行政から、全国的にアクセス可能な知財サービスへの転換を意味し、中小企業や地方発イノベーションにとっても重要な環境整備といえるでしょう。
知的財産を「資産」として捉える視点
さらに注目すべきは、知的財産資産の評価や、海外での権利取得・保護を支援する国家政策の検討です。これは、知的財産を単なる権利保護の対象としてではなく、経済価値を持つ資産として位置付ける発想の広がりを示しています。
局長は、知的財産が世界経済における主要な柱の一つであることを強調し、世界貿易機関の枠組みや、世界知的所有権機関の統計を引用しました。S&P500企業の資産の大半が無形資産であるという指摘は、知識経済において競争力を左右する要因が、明確に知的財産へと移行している現実を端的に示しています。
未処理案件問題の克服と今後の課題
急増する出願件数や人材・財政面の制約は、依然として大きな課題です。しかし、未処理案件の解消に関しては、国会決議と行政全体の強い意思を背景に、国際的にも高い評価を得る成果を上げました。この点は、制度改革が「実行力」を伴っていることの象徴といえるでしょう。
2026年に向けた展望
知的財産局は2026年に向け、法制度のさらなる改善、手続き改革の加速、処理期間の短縮、そして業界全体を視野に入れたデジタル変革を掲げています。これらの取り組みは、単なる行政効率化ではなく、イノベーションと持続可能な成長を支える社会基盤づくりそのものです。
今回のセミナーで示された一連の動きからは、ベトナムが「知財制度を整える国」から「知財を成長戦略の中核に据える国」へと、確実に歩みを進めている姿が浮かび上がってきます。今後、その成果が企業活動や国際競争力の向上としてどのように結実していくのか、引き続き注視していきたいところです。
