韓国で発表された1月の雇用動向は、多くの示唆を含んでいます。専門・科学技術サービス業の就業者が前年同月比で9万8000人減少し、2013年の産業分類改編以降で最大幅の減少となりました。中でも、会計・法律・税務・特許といった高付加価値の専門サービス分野の落ち込みが目立っています。
これらの分野には、弁護士、会計士、弁理士、税理士といった高度専門職が含まれます。従来は安定かつ高所得とされてきた領域です。その就業者が減少しているという事実は、単なる景気循環とは異なる構造変化の可能性を示唆しています。
「AIによる雇用代替」は現実化しているのか
国家データ処の関係者は、2023年以降の増勢に対する「技術的調整」の可能性を指摘しつつ、AIの発展が新規採用の鈍化に影響しているのではないかと述べています。現時点でAI起因の雇用減少と断定することはできませんが、現場の変化は無視できない段階に入っていると考えられます。
2022年11月にChatGPTが登場して以降、ソフトウエア開発者の需要は一時的に急増しました。しかし、生成AIの高度化により、コード生成やレビュー、ドキュメント作成などの一部業務が自動化され、開発者需要にも調整の兆しが見えています。専門職の世界でも、契約書ドラフト、判例検索、税務計算、特許明細書の下書きといった業務がAIで代替・補助可能になりつつあります。
重要なのは、「仕事が完全に消えるかどうか」ではなく、「仕事の中身が変質しているかどうか」です。専門職においても、定型的・反復的・情報集約型の業務は急速に自動化が進んでいます。新規採用が減るという現象は、まずエントリーレベル業務の縮小から始まる傾向があります。これは将来的な人材育成の断絶という、より深刻な問題につながる可能性があります。
生産現場でも進む不可逆的変化
生産職も例外ではありません。現代自動車がヒューマノイドロボット「アトラス」を2028年から生産現場に投入する計画は、自動化が一過性のトレンドではなく、不可逆的な構造変化であることを象徴しています。
19世紀英国のラッダイト運動が産業革命を止められなかったように、AI革命も止めることはできません。問題は、技術進歩を止められるかどうかではなく、その衝撃をいかに社会が吸収するかにあります。
青年雇用への影響と構造的リスク
1月の青年雇用率は43.6%と、2021年以降で最も低い水準でした。さらに、求職活動をやめた「休んでいる」人口が278万人を超えているという事実は、単なる景気減速では説明できない深刻さを示しています。
AI拡散のスピードが予想を上回る中で、若年層が適応に追いついていない可能性があります。特に専門職を目指して長期間の教育投資を行った若者が、入口段階で機会を得られない状況は、社会的コストとしても大きな問題です。
本当に問われているのは「制度の適応力」
この問題は、単なる雇用統計の変動ではありません。労働市場制度、資格制度、教育カリキュラム、産業政策の適応速度が問われています。
第一に、再教育・転換訓練の強化は急務です。AIを使いこなす側に回るためのスキル転換が不可欠です。専門職であっても、「AIを活用できる専門家」と「AIに代替される専門家」の間で格差が生まれる可能性があります。
第二に、人材需給計画の見直しが必要です。従来型の人材養成数と実際の市場吸収力が乖離している場合、制度設計そのものの再考が求められます。
第三に、規制改革と新産業創出の加速です。技術革新に見合う新たな雇用領域を生み出さなければ、代替効果だけが前面に出てしまいます。政府の役割は、旧来型産業を保護することよりも、新しい産業基盤を整備することにあります。
結論:悲観でも楽観でもなく、構造変化への冷静な対応を
今回の韓国の統計は、AIによる雇用代替が現実化しつつある可能性を示すシグナルと見るべきです。ただし、単純な「AIが仕事を奪う」という図式で理解するのは不十分です。
技術革新は常に雇用構造を変えてきました。問題は、その移行期における摩擦と痛みをどれだけ最小化できるかです。専門職であっても例外ではないという点が、今回のニュースの最も重いメッセージではないでしょうか。
AI革命は不可逆です。だからこそ、制度、教育、企業、そして個人の適応戦略が、これまで以上に問われています。今はその分岐点に立っているのかもしれません。
