EPO2025統計で見えた欧州特許戦略の変化 中国台頭をどう読むか

欧州特許庁(EPO)が公表した2025年統計は、単に「中国の出願件数が増えた」というニュースではありません。2025年のEPOへの特許出願は過去最高の201,974件となり、前年比1.4%増でした。そのなかで中国は前年比9.7%増で日本を上回り、国別で初めて3位に浮上しました。しかも、EPO出願全体の57%は欧州域外からの出願であり、コンピューター技術が17,844件、デジタル通信が17,802件と、デジタル分野が全体の伸びを強く牽引しています。つまり欧州は、地域内の保護先というより、世界の主要プレイヤーが真正面から競い合うグローバル市場として機能していると見るべきです。

中国の3位浮上が重要なのは、これが一時的な増加ではなく、欧州を明確な戦略市場として見ている動きに見えるからです。EPOの公表資料では、中国からの出願は2016年以降で3倍に増えたとされており、今回の3位浮上はその延長線上にあります。欧州で権利を取るという行為が、中国企業にとって「余力があれば出す」ものではなく、事業展開や技術交渉の前提になってきたことを示しているように思われます。

今回の統計でもう一つ重要なのは、中国の台頭を通信分野だけの話として捉えないことです。EPO全体では、デジタル通信が前年比11.4%増で主要分野の中で最も高い伸びを示し、コンピューター技術も6.1%増でした。さらに、AI関連出願は9.5%増、半導体技術は7.6%増、電池を含む電気機械・エネルギー分野も5.3%増となっています。欧州の特許競争は、通信、AI、半導体、電池といった相互に結びつく技術群で厚みを増しており、中国企業の存在感もその大きな流れの中で理解する必要があります。

企業別ランキングを見ると、その構図はさらに明確です。2025年のEPO出願上位は、1位がサムスン、2位がファーウェイ、3位がLG、4位がクアルコムで、CATLも10位に入りました。ファーウェイは4,744件、CATLは1,305件です。ここから見えてくるのは、中国企業の欧州特許戦略が、通信インフラや端末周辺にとどまらず、電池やモビリティ関連まで広がっていることです。欧州での競争が「デジタル通信」対「製造業」ではなく、情報通信とエネルギー・輸送が結びついた複合戦になっていることを示すランキングだといえます。

さらに見逃せないのは、欧州で権利を取った後の活用意識です。EPOによれば、2025年のユニタリーパテント利用率は全体で28.7%に達し、中国由来の欧州特許でも22.6%がユニタリーパテント化されています。これは、単に欧州に出願するだけでなく、成立後により広い地域で一体的に権利を行使できる形を意識していることを示しています。欧州は「出願先」の一つではなく、取得後の権利行使や交渉まで見据えて押さえる市場になっているのです。

この統計を日本企業の立場から読むと、示唆はかなり明確です。もはや欧州出願は、単に海外権利化の一環として淡々と処理するものではありません。デジタル通信、AI関連技術、電池、半導体のように、標準化、サプライチェーン、共同研究、部材供給が複雑に絡み合う分野では、欧州での権利取得と同時に、競合の出願監視、早期のFTO検討、分割出願を含むポートフォリオ設計まで一体で考える必要があります。今回のEPO統計は、その必要性をかなりはっきり示しているように思われます。

今回のニュースの本質は、「中国が日本を抜いた」という順位変動そのものより、欧州特許の競争軸がデジタルとエネルギーに寄りながら、そこへ中国企業が本格的に食い込んできた点にあります。欧州で特許を取る意味は、これまで以上に、販売市場の確保だけでなく、技術主導権と交渉力の確保に近づいています。EPO2025統計は、その現実をかなり鮮明に映し出したデータだといえるでしょう。