韓国・食薬処が後押しする「特許への挑戦」――中小製薬企業支援が示す後発医薬品競争の新局面

韓国の食品医薬品安全処(食薬処)が、既存医薬品の特許に挑む中小製薬企業を支援する「2026年医薬品特許対応戦略コンサルティング支援事業」の参加企業とコンサルティング実施機関の募集を、2026年6月7日まで行うと明らかにしました。今年は9社以内を選定し、国内外の特許調査や特許分析、研究開発の方向性提示といった支援を提供し、企業当たり最大3000万ウォンを支援する方針です。対象は直近2年の平均売上高が1800億ウォン以下の中小製薬企業で、申請時には企業側が実施機関を指定することも、登録機関のリスト提供を受けることもできるとされています。

守る知財から攻める知財へ

今回のニュースで注目すべきなのは、支援の対象が単なる出願や権利化ではなく、「既存特許への対応戦略」に置かれている点です。無効審判や非侵害主張を見据えた特許調査、分析、戦略設計を後押しするということは、知財を守るための制度というより、知財を突破して市場参入するための制度として設計されていることを意味します。実際、食薬処は2016年の時点で、特許挑戦を通じて医薬品開発を進めようとする中小製薬企業向けのコンサルティング支援を案内しており、2023年の公式案内でも、特許分析や戦略立案に加えて、優先販売品目許可の獲得戦略まで支援対象に含めていました。

制度の本当の狙い

韓国では、いわゆる医薬品の許可・特許連係制度の下で、後発医薬品の申請者が特許を侵害しないことを認められたり、特許審判や訴訟で勝ったりした場合に、優先販売品目許可を受けられる仕組みがあります。政府の公式説明では、その場合に9か月間の優先販売が認められるとされています。つまり、特許対応戦略の巧拙は、単に紛争を回避できるかどうかにとどまらず、市場参入のタイミングや先行者利益の確保に直結し得るということです。今回の支援策は、まさにその入口部分である「勝てる挑戦」を設計する能力を底上げしようとするものだと見るべきです。

中小製薬企業にとっての本当の壁

中小製薬企業にとって本当に重いのは、特許そのものの存在だけではありません。どの特許が本当に障害になるのか、どの請求項なら回避設計が可能なのか、無効理由をどこに見いだせるのか、そしてその挑戦が事業として採算に合うのかを見極める初動コストです。特許調査やクリアランス分析は、研究開発のごく初期段階で必要になる一方、売上化の前に費用だけが先行しやすい領域でもあります。そのため、ここを公的支援で埋めることには、単なる補助金以上の意味があります。研究開発費の補填というより、「参入判断の知的インフラ」を政府が一部肩代わりする政策だからです。

小規模でもインパクトが大きい理由

今年の支援は9社以内、1社当たり最大3000万ウォンという規模であり、量的には大きな産業支援策には見えません。しかし、この種の支援は広く薄く配るよりも、具体的な開発候補と特許争点を持つ企業に絞って投入したほうが効果が出やすいはずです。しかも、食薬処は2016年から同様の支援を続けており、これまでに61社、104件の課題を支援してきたとしています。さらに、食薬処は参加企業の中から、特許への挑戦を通じて優先販売品目許可などを獲得した事例もあったと説明しています。政策としては派手ではありませんが、実務的にはかなり筋の良い支援だといえます。

規制当局の役割変化

このニュースは、規制当局の役割が「安全性・有効性を審査する行政機関」にとどまらなくなっていることも示しています。もちろん食薬処の本来業務は医薬品の安全確保ですが、実際には市場に競争的な製品を送り出すための知財戦略まで支援対象に取り込みつつあります。これは、医薬品政策が承認審査だけでは完結しないことを意味します。どれだけ優れた後発医薬品候補があっても、特許の壁を越えられなければ市場には届きません。逆にいえば、特許への対応力を高めること自体が、産業政策であると同時にアクセス政策にもなり得るのです。

日本から見た示唆

日本でも後発医薬品の安定供給やバイオシミラーの普及が重要な政策課題になっていますが、その議論は製造体制や品質管理、薬価、供給不安対策に寄りがちです。もちろんそれらは重要ですが、韓国の今回の動きは、競争の出発点にある「特許をどう読むか、どう挑むか」という能力形成に政策資源を投じている点で示唆的です。後発品の競争環境は、承認制度や価格制度だけで決まるのではなく、知財への実務対応力によっても大きく左右されるからです。

おわりに

今回の食薬処の支援策は、中小製薬企業向けの一つの公募事業に見えて、実はそれ以上の意味を持っています。そこにあるのは、後発医薬品や改良型医薬品の競争力を高めるには、研究開発費だけでなく、特許を突破するための知的戦略を支える必要があるという政策判断です。医薬品産業において、特許は守るべき権利であると同時に、乗り越えるべき市場参入障壁でもあります。韓国はその現実を正面から認め、中小企業に「挑戦する力」を持たせようとしているのだと思います。