AI時代の特許制度はどうあるべきか?―発明者とは誰かを巡る法制度の転換点

6月4日、特許庁は産業構造審議会において、AIを活用した発明に関する特許制度の見直しに向けた議論を行いました。AIが創出に関与する知的財産の増加を受け、発明の定義や発明者の認定、引用発明の取り扱いといった根幹的なルールの整備が求められています。今回の議論は、日本の特許制度が「AI時代」に対応するための第一歩となる重要な動きです。

「AIが関与した発明」は発明といえるのか?

現行特許法では「発明」とは「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」とされますが、この定義がAIによって自動生成された技術にも当てはまるのかは明文化されていません。
特許庁は、「自然人がAIを活用して創出したものは発明に該当する」という方向性を示しました。
これは、「AIそのものが発明した」とするのではなく、人間による主体的な活用があってこその創作活動と位置づける姿勢です。
この方針は、技術的成果に対して人間の関与が担保されている限り、AIの補助を排除しない現実的な対応と言えます。米国や欧州の判例や制度とも整合的です。

発明者は「人間」か、それとも「AI」か?

現在の日本の特許法には「発明者」の定義が明文化されていませんが、実務上は「自然人」であることが前提とされています。
今回の議論では、「AIを積極的に利用しても、発明者が不在になることのないよう、発明者の定義を明文化すべき」との方向性が提示されました。
ただし、「AIそのものを発明者と認めることは混乱を招く」として、AIの人格性や権利主体性は否定されています。生成AIが担う創作活動の幅が拡大する中で、「誰が発明者か」という認定はますます曖昧になっていくでしょう。
今後の焦点は、「どの程度AIの出力に依存すれば人間の創作性が否定されるのか」という線引きの議論になると予想されます。

AIによって生成された資料や論文は「引用発明」として認められるのか?

AIが生成したアイデアや資料を元にした他者の発明に対し、それを「引用発明」として認めるかどうかについても検討が進められています。
ただし、AIが生成したかどうかを立証するのは困難であるため、「引用発明の適格性要件に含めない」という方向性が提案されました。生成元が曖昧になりがちなAI資料は、著作権や特許実務の運用上も新たな課題を生みます。
今後は、「引用発明」の信頼性や立証方法を巡って、出典開示の義務化やAIツールの利用履歴の管理などが議論される可能性があります。

今回の特許庁による議論は、AIが関与する創作活動の拡大に伴って、制度が追いつこうとする重要な動きです。
法制度として「AIを活用した発明」に一定の基準を設けることは、今後の産業競争力や技術の健全な発展にとって不可欠です。
一方で、「人間の創作性とは何か」「発明者の責任と権利をどう定義するか」といった、根源的な問いも突きつけられています。

次回の本格的な制度検討に向けて、企業・学界・法曹界を巻き込んだ広範な議論が必要です。
AIとともに歩む特許制度の行方を、私たちも注視していくべきでしょう。